最新記事

韓国事情

韓国の「働き方改革」、週52時間勤務制導入で、想定外の混乱招く

2018年10月25日(木)15時30分
佐々木和義

余暇は増えたが、収入も減った… georgeclerk-iStock

<韓国で労働時間52時間制が導入されて4ヶ月、労働生産性の向上と雇用創出が期待されたが、なかなか想定どおりにはいかないようだ...>

労働時間52時間制が導入されて4か月経過した韓国で、格差拡大と空洞化を懸念など、想定外の声がではじめている。

韓国の勤労時間は週40時間が原則で、週最大28時間まで超過勤務が認められていたが、2018年2月に成立した改正勤労基準法で超過勤務の上限が週12時間に短縮された。

また、これまで「週」に関する規定がなかったが、一週を7日とすることが明記された。たとえば企業が月曜から金曜を一週と定めると月曜から金曜までの超過勤務は28時間が上限だが、土日の勤務は28時間に含まれないとする解釈が可能だったのだ。

この改正勤労基準法は、公共機関と従業員300人以上の事業所は2018年7月1日から施行されており、50人から299人の事業所は2020年1月、5人から49人の事業所は2022年1月からそれぞれ施行される予定になっている。

余暇産業など最大15万人の雇用創出を期待したが...

法改正の背景に労働生産性の向上と雇用創出の期待がある。

韓国の年間勤労時間はOECDの平均1766時間を大きく上回る2113時間でメキシコに次いで2番目に長いが、2016年の1時間あたりの労働生産性は31.8ドルとOECD平均46.6ドルの70%以下の水準にとどまっていた。

勤労時間の短縮は過労死などの健康被害を防ぐ目的があり、時間短縮によって不足する労働力の補填や増加が見込まれる余暇産業など、政府は5年間で最大15万人の雇用創出を期待する。

実際に時間短縮で浮いた時間を余暇活動や自己啓発に活用する会社員が増えており、映画館や美術館、ミュージカル公演は夕方以降の利用者が増加し、書店、ゴルフ練習場、ボーリング場、フィットネスクラブなど娯楽関連売上げは前年同期と比べて9.2%増加した。

またソウル銅雀区のように70.3%増加した地域や江西区、東大門区など住宅地域は軒並み増加したが、オフィス街を抱える鍾路区や矜川区はそれぞれ7.7%、6.7%減少しており、地域間格差が広がりはじめている。

2018年10月2日、通信大手のKTとクレジットカード大手のBCカードが、会社員の生活パターンの調査分析結果を発表した。

大企業や公共機関が集中するソウル光化門地域で働く人の勤務時間は以前と比べて55分減と制度導入で勤務時間が大きく短縮されたが、一方で金融業が集まる汝矣島は7分、IT企業が多い城南市板橋(パンギョ)地区は12分の短縮にとどまり、中小メーカーが集まる加山デジタル団地は勤務時間が増加するなど、地域によって分かれる結果となっている。

さらに光化門や板橋は午後6時以降の飲食店売上げが10%以上減少しており、調査を行ったKTは退勤後に会社の近くで食事をしていた会社員が、家の近くで夜を過ごすようになったと分析する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECBの4月据え置き支持、関税などインフレリスク=

ビジネス

中国新規銀行融資、予想以上に減少 2月として202

ビジネス

独BMW、関税戦争が業績10億ユーロ下押しへ 24

ワールド

プーチン氏がトランプ氏に伝言、「慎重な楽観主義」あ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 6
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 10
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中