最新記事

朝鮮半島

平壌共同宣言は過去の合意の二番煎じだ

2018年9月29日(土)15時45分
ブルース・クリングナー(米ヘリテージ財団・北東アジア担当上級研究員)

平壌でマスゲームを鑑賞した南北両首脳(9月19日) Pyeongyang Press Corp/REUTERS

<平和と緊張緩和をぶち上げたが、非核化の具体策はなし――アメリカは「急ぎ過ぎる」韓国側をペースダウンさせられるか>

南北首脳会談の華やかな演出の中、9月19日に発表された平壌共同宣言は、一見すると朝鮮半島情勢の新たな突破口のように見える。だが詳しく分析すると、二番煎じの感を拭えない。

平壌宣言は平和と緊張緩和をうたい上げているが、北朝鮮が非核化の約束を実行するための具体策には言及していない。むしろ目立つのは、過去の首脳会談の合意文書との共通点だ。

第1に、韓国の北朝鮮に対する追加支援の約束。ただし、これは国連の制裁決議違反になる。

第2に、朝鮮半島の民族自決を強調し、アメリカの関与を軽視する北朝鮮流の表現の採用。

第3に、緊張緩和措置の合意。ただし、近隣諸国を脅かしているのは北朝鮮だけだ。

第4に、国連決議が北朝鮮に要求している核兵器、ミサイル、生物化学兵器開発計画の「完全かつ検証可能で不可逆的な」廃棄については、曖昧な表現を使い、条件を付けて逃げている。

第5に、北朝鮮だけを悪者にしないように、非核化については文書の最後のほうで簡潔に触れるだけにとどめている。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が約束した経済的支援は、国連決議とアメリカの法律に対する明確な違反を国連とアメリカが黙認しない限り、実現不可能だ。米政府は既に、非核化の進展を要求しないまま北朝鮮との関係改善に突き進む文にいら立っている。

13年前より後退した内容

.

偶発的な武力衝突や軍事対立のエスカレートを防ぐための信頼醸成措置は歓迎できる。だが韓国と在韓米軍に対する北朝鮮の通常兵器の脅威が低下する前に、南北軍事境界線に設置された非武装地帯(DMZ)にある監視所を撤収するなど、同盟国の防衛力を弱体化し得る文のやり方はリスクが大き過ぎる。

米政府は文に、核とミサイルの廃棄に向けた北朝鮮の明確かつ具体的なコミットメントを引き出すことを期待していた。だが平壌宣言は、北朝鮮とアメリカの「非核化」の定義の差を埋められず、北朝鮮が取るべき措置を示すことにも失敗した。

北朝鮮が平壌宣言で示した非核化の約束は、13年前に同意した内容より後退している。05年9月の6カ国協議の共同声明では、北朝鮮は「全ての核兵器と既存の核開発計画の廃棄、核拡散防止条約(NPT)とIAEA(国際原子力機関)の保障措置への早期復帰を約束」した。

北朝鮮は相変わらず、まずアメリカが適切な措置を取るべきだと主張している。以前は問題解決を阻む最大の障害として米韓合同軍事演習を非難していたが、シンガポールの米朝首脳会談でトランプ米大統領から演習凍結という譲歩を引き出した後は、朝鮮戦争の終戦宣言が必要だと主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中