通貨危機アルゼンチンが抱える構造問題
THE WAY OUT OF ARGENTINA’S NEW CRISIS
IMFが融資に乗り出したが、「口出し」に反発する市民も MARCOS BRINDICCI-REUTERS
<米金利の上昇が引き金となって通貨安とインフレが加速――マクリ政権の財政再建路線は脆弱経済を変えるのか>
マサチューセッツ工科大学(MIT)で教鞭を執った著名な経済学者ルディガー・ドーンブッシュは80年代、学生たちにこう語っていた。世界には4種類の国がある。豊かな国、貧しい国、日本、そしてアルゼンチンだ――。
驚異的な経済成長を遂げた日本を特別視する声はもはや聞かれなくなった。一方、アルゼンチンが世界経済に危機をもたらすという懸念は、今も時々再燃する。
最近も再び、通貨アルゼンチンペソの急落が国際社会を震撼させている。4月下旬、10年物米国債利回りが2014年以来初めて3%台に上昇すると、ドル買いペソ売りが一気に加速。アルゼンチン当局は短期間に3度の利上げを繰り返して、政策金利を40%にまで引き上げた。加えて、IMFにも支援を要請。おかげで、ペソ相場はいったん落ち着きを取り戻したかにみえた。
そこに今度はトルコリラの急落が襲い掛かった。これに連動してペソ相場は再び下落し、1ドル=30ペソと対ドルで史上最安値を更新。アルゼンチン中央銀行は8月13日、政策金利をさらに5%引き上げて45%にすると発表した。だが、ペソ売りの圧力は弱まっていない。
アルゼンチン経済はなぜこれほど脆弱なのか。通貨危機を繰り返さないために、当局はどのような対策を講じるべきなのか。
15年12月、アルゼンチンに新たな大統領が誕生した。実業家出身で中道右派のマウリシオ・マクリだ。
大衆迎合的な政策で放蕩財政に明け暮れた前任者たちと比べれば、マクリと彼の経済チームは劇的に有能だ。国政の経験者が不在だったため、アナリストらは当初、政権の手腕を評価していなかったが、マクリはここまでのところ、有能な指導者と抜け目ない政治家の顔を両立させてきた。
信用不安が真っ先に飛び火
しかし通貨危機は、そんな善良な政権にも容赦なく襲い掛かる。始まりは昨年12月に行われた記者会見での不運だった。
この会見では、18年のインフレ抑制目標が従来の8~12%から15%に緩和されることが発表された。当時の経済状況を考えれば妥当な修正だったが、会見の席に中央銀行総裁と共にマルコス・ペニャ官房長官やニコラス・ドゥホブネ財務相が同席。政治的な介入ではないかとの懸念が広がった。
アルゼンチンの通貨政策はインフレ目標と変動為替相場を基盤としている。しかし今年3月、通貨安とインフレの進行を受けて、中央銀行は為替相場を1ドル=20ペソ程度に落ち着かせるべく再び介入に乗り出した。当然、投資家からは政策路線を変更するのかと問う声が上がった。