通貨危機アルゼンチンが抱える構造問題
THE WAY OUT OF ARGENTINA’S NEW CRISIS
過去の政権が数々の「ショック療法」を繰り出しながら効果を上げられなかった歴史を踏まえて、マクリは前政権から引き継いだ経済的混乱を時間をかけて修正する道を選んだ。彼はエネルギー価格への助成削減などの歳出削減策を進める一方で、成長を加速させるために農産物価格の安定を目的とした輸出税の軽減に踏み切った。その結果、財政赤字は減少傾向にあるものの、政府は今も外国からの巨額の借り入れを強いられている。
アメリカの長期金利が上昇してドル高が一気に進むまでは、マクリ政権の緩やかな財政再建策は合理的な戦略に思えた。だが、ひとたび新興国市場への信用不安が再燃し始めると、その矛先は真っ先にアルゼンチンとトルコに向かった。
トルコ政府がまずい対応によって最悪の事態を引き起こしたのに比べれば、アルゼンチン当局は困難に向き合い、断固たる措置を取ったといえる。
反ポピュリズムの道を示せ
IMFへの支援要請は政治的なダメージにつながるが、避けられない選択だった。十分な財政的裏付けがなかったら、アルゼンチン当局は投資家に対し、債務は返済できるし、ペソの価値は守られると説得できなかっただろう。
4~5月に行われた政策金利の急激な引き上げも、やむを得ない措置だった。為替を安定させるためだけではない。当時はペソ建て債券のロールオーバー(借り換え)を間近に控えており、投資家に対してロールオーバーの利点をアピールする必要もあった。
とはいえ、極めて高い政策金利が長期的に継続されれば、アルゼンチン経済への信用が損なわれることは避けられない。当局は政策金利を徐々に引き下げることが妥当であり、また持続可能であると市場を納得させる必要がある。中央銀行は今後、政策金利の段階的な引き下げを模索していくことになるだろう。
一方、IMFにも慎重な対応が求められる。あまりに急激な財政調整は政治的反動を引き起こしかねない。マクリ政権からの支援要請を受けて、IMFは6月に3年間で最大500億ドルの融資を行うことに同意した。
マクリ政権が進めるリベラルな改革路線が成功を収めるか否かは、単にアルゼンチンだけの問題ではなく、中南米全体の今後を占う上でも重要になるだろう。
ブラジルでは10月に大統領選挙が予定されている。支持率でトップを走る候補は、左派ポピュリズム(大衆迎合主義)の政策で人気が高いルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ元大統領だ(ただし汚職容疑で収監されており、実際に出馬できるかどうかは分からないが)。
7月に行われたメキシコ大統領選では既に、新興左派政党を率いるポピュリスト指導者のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールが大差で勝利。12月に就任する予定だ。
アメリカのドナルド・トランプ大統領に加えて、欧州やアジア諸国でもポピュリストが相次いで権力を握っている。その上、ラテンアメリカ有数の巨大国家ブラジルとメキシコでポピュリスト指導者が誕生すれば、世界全体に深刻な影響を及ぼしかねない。
アルゼンチンの改革が成功すれば、ポピュリズムに走らない新たな道が可能であることを世界に示せるかもしれない。ただし、そのためには国際社会による正しい方策と強力なサポートが不可欠だ。
(筆者はハーバード大学やコロンビア大学の教授を務め、国際経済に関する多くの著書がある)
From Project Syndicate
[2018年9月 4日号掲載]
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