最新記事

EU

サマータイム存続の是非をEU市民に問うと......84%が廃止希望だった

2018年9月3日(月)18時40分
モーゲンスタン陽子

ヨーロッパはサマータイム廃止の動き Easyturn-iStock

<ヨーロッパでサマータイム存続をめぐるオンライン調査が行われ、約460万件の回答があり、多くが廃止を希望した>

ヨーロッパで先月まで実施されていた、サマータイム存続の是非をEU市民に問う意見調査の結果が29日に発表された。84%が廃止を希望という結果を受け31日、欧州委員会のユンケル委員長が「人々がそうしたいなら、そのようにしよう」と、廃止を前向きに検討することを公表。世論を尊重する形となりそうだ。

エネルギー削減効果はそれほどでもない?

発端は今年2月、サマータイム制度による時間変更が健康に悪影響を与えるという専門家の指摘を受け、ドイツの自由民主党(FDP)が欧州委員会に制度の徹底的な再評価を要請したことだ。また、すでに以前から同制度の見直しを求める声の高かったフィンランドでは今年初め、同制度廃止に賛成する7万以上の署名が議員に提出されていた。

サマータイム制度は、英語の「デイライト・セイビング・タイム」という表現からもわかるように、日照時間を長く活用することで電力を節約しようという試みだ。だが、夏の日照時間がもともと非常に長いフィンランドなど北欧諸国ではその効果がほとんどない。にもかかわらずEUは1996年以降、加盟28国に同制度の導入を義務付けているため、同国もこれに従わざるをえないことに不満を覚える市民が多いようだ。実際、他の欧州諸国でも、同制度によるエネルギー削減効果はあまりないと、欧州委員会は報告している。

回答最多のドイツでは73%が反対

約460万件の回答があった今回のオンライン調査(7月4日〜8月16日)は、結果としてヨーロッパ史上最大の意見調査となった。その約3分の2がドイツからの回答だった。ヴェストファーレンポストによると、ドイツでは73%が制度に反対だった。現制度では、加盟国は3月末に1時間時計を早め、10月末に1時間遅らせるよう義務付けられている。簡単にいうと、サマータイム初日は睡眠時間を1時間削られ、最終日に1時間長く寝られるということだ。

たった1時間の差が大きい。とくに不評なのが、時間が進むサマータイム開始だ。3月下旬〜4月上旬のヨーロッパはまだまだ寒い。また、せっかく明るくなり始めた早朝の通勤・通学時間帯が、また真っ暗闇に戻ってしまう。そのためこの時期は、交通事故の増加も毎年のように指摘される。暖房や照明のコストを考えると、エネルギー削減効果も疑問だ。

第一次世界大戦以降、紆余曲折を経て70年代ごろから定着した同制度だが、コンピュータ・モバイル機器使用の盛んな現代では、電力使用に時間帯はそれほど関係ないのかもしれない。

夏の盛り、いつまでも明るい青空の下で日光浴やワインを楽しむ光景はヨーロッパの風物詩だが、就学年齢の児童を持つ親たちにはこれも問題となる。

例えば、始業時間の早いドイツでは、夜7〜8時ごろに子供を寝かせたいドイツ人家庭が多いが、一方で在独トルコ・南欧家庭は子供を遅くまで外で遊ばせる傾向がある。両者が共存する地域では、ドイツ人家庭の子供たちが外から聞こえる歓声になかなか寝付けない、との声もよく聞かれる。夏時間反対は南欧ではそれほど多くなかったようだが、こんな文化的事情もあるのかもしれない。

夜8時でも燦々と日が照っていれば、人間は活動してしまう。結果、夕食等が遅れ、そのまま就寝時間が遅れ翌日に響く、という悪循環もある。日本でもしサマータイムが導入されたなら、無駄に残業時間が増えてしまうだけではないかという気もする。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中