最新記事

人権問題

ベトナム高裁、人権活動家の控訴審で禁固13年 人権・民主活動家に厳罰で臨む政府

2018年9月17日(月)07時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

相次ぐ活動家への厳しい対応

2018年8月16日には人権活動家であり作家でもあるレ・ディン・ルオン被告(53)に対しゲアン省裁判所が反政府組織との関連を疑って国家転覆容疑により禁固20年の実刑判決を言い渡している(「ベトナム、人権活動家に禁固20年 最高刑判決にみる政府の焦り」)。ルオン被告への禁固20年は同容疑での過去最高刑といわれている。

判決はまだ出ていないものの8月9日にはNGO団体「ベトナム女性の人権擁護」の共同創設者の一人でネットを通じてベトナム人女性の人権問題を追及、発信していた女性活動家のフイン・トゥク・ヴィーさんが突然逮捕される事案(「ベトナム女性人権活動家、突然の拘束 報道・言論の自由への道なお険しく」)も起きている。

さらに9月7日にはネット上のサイトFace Bookで活動していた人権活動家のゴー・ヴァン・ドゥン氏ら3人が突然消息不明になり、警察に身柄を拘束されていることが明らかになるなど、政府、治安当局による民主活動家、人権活動家への締め付けは、このところさらに一段と厳しくなっているという。

今回のトゥック被告の控訴審判決について国際的人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」(本部米ニューヨーク)は「政治目的による判決の破棄と被告の即時無条件釈放」をベトナム政府に求める声明を発表している。

さらに「最近のベトナム政府と司法によるこういった活動家、ブロガーへの判決は極めて長期化する傾向にある。長期の実刑は同様の活動をするベトナム人活動家を脅迫する意味もあるとみられ不当である」(フィル・ロバートソンHRWアジア副代表)とベトナム政府を批判している。

こうした一連の強硬なベトナム政府の姿勢の背景には、ネットなどを通じてベトナム社会が抱える深刻な人権状況が内外に広く拡散することに対する共産党政府、治安当局の焦燥感があるものとみられている。

一方では、人権団体などの厳しい批判を受けてもベトナム国内の人権を巡る過酷な状況に変化の兆しが見えてこないことに、活動家たちの側にも焦りが募りはじめている。この国の人権をめぐる状況は、ますます混沌としているというのが現状といえるだろう。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中