トランプvs.金正恩、腹の探り合い
チャイナ・セブンの一人である栗戦書氏が、7月に自民党の大島理森衆議院議長と会談したあとに、北朝鮮に関して「なかなか難しい。北朝鮮は非核化に関して中国から指図を受けるのを嫌がっている」と愚痴をこぼしたのは象徴的だ。
トランプはポンペオ訪朝中止を公開するツイッターの中で、ついでに「中国が非協力的だ」という趣旨のことを書いているが、中朝関係も、実は今も微妙だ。
金正恩は独自にトランプとディールをやっている。
金正恩としては、「平和協定」まで持ち出しておいて、「終戦宣言」で譲歩するつもりだろう。
トランプは、シンガポールの時と同じように、完全なリストを出さなければ「米韓合同軍事演習の再開」や「制裁の強化」さえあると脅しておいて、アメリカ国民を納得させるに足るリストが出てくれば、米朝首脳会談を決意した自分の成果だとして、勝利宣言をする。ひょっとしたら、北朝鮮に平和協定まで持ち出させて、「ほらね、それを終戦宣言にまで譲歩させた」と自慢するつもりかもしれない。
そして近いうちに、第2回の米中首脳会談を行なって同時交換をするという心づもりだろう。そのために互いに譲らず腹の探り合いを演技するという、ビッグ・ディールを行なっているのだと見ていいのではないだろうか。
ポンペオは早速、8月29日に「北朝鮮との話し合いは続ける」と言っているではないか。
そもそもトランプはポンペオ訪朝中止を知らせるツイートで、「金正恩委員長と再び会うことを楽しみにしている」と付け加えるのを忘れなかった。本当は会いたいのだ。
金正恩のシグナル
北朝鮮の動きも興味深い。
8月1日に米議会で決議された「国防権限法」により、終戦宣言をしたとしても、在韓米軍は削減こそすれ撤退しない選択が可能となる。終戦宣言から平和協定締結までには、まだ道のりがあろうが、トランプは国内世論を抑えるべく先手を打っているように見える。
8月27日に北朝鮮の労働新聞が、この「国防権限法」にチラッと触れたのは、なんとも示唆的であった。つまり在韓米軍は駐留していてもいいから、終戦宣言だけはやってくださいよね、とトランプに呼びかけていると解釈されるからだ。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。