最新記事

北朝鮮

トランプvs.金正恩、腹の探り合い

2018年8月30日(木)13時10分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

チャイナ・セブンの一人である栗戦書氏が、7月に自民党の大島理森衆議院議長と会談したあとに、北朝鮮に関して「なかなか難しい。北朝鮮は非核化に関して中国から指図を受けるのを嫌がっている」と愚痴をこぼしたのは象徴的だ。

トランプはポンペオ訪朝中止を公開するツイッターの中で、ついでに「中国が非協力的だ」という趣旨のことを書いているが、中朝関係も、実は今も微妙だ。

金正恩は独自にトランプとディールをやっている。

金正恩としては、「平和協定」まで持ち出しておいて、「終戦宣言」で譲歩するつもりだろう。

トランプは、シンガポールの時と同じように、完全なリストを出さなければ「米韓合同軍事演習の再開」や「制裁の強化」さえあると脅しておいて、アメリカ国民を納得させるに足るリストが出てくれば、米朝首脳会談を決意した自分の成果だとして、勝利宣言をする。ひょっとしたら、北朝鮮に平和協定まで持ち出させて、「ほらね、それを終戦宣言にまで譲歩させた」と自慢するつもりかもしれない。

そして近いうちに、第2回の米中首脳会談を行なって同時交換をするという心づもりだろう。そのために互いに譲らず腹の探り合いを演技するという、ビッグ・ディールを行なっているのだと見ていいのではないだろうか。

ポンペオは早速、8月29日に「北朝鮮との話し合いは続ける」と言っているではないか。

そもそもトランプはポンペオ訪朝中止を知らせるツイートで、「金正恩委員長と再び会うことを楽しみにしている」と付け加えるのを忘れなかった。本当は会いたいのだ。

金正恩のシグナル

北朝鮮の動きも興味深い。

8月1日に米議会で決議された「国防権限法」により、終戦宣言をしたとしても、在韓米軍は削減こそすれ撤退しない選択が可能となる。終戦宣言から平和協定締結までには、まだ道のりがあろうが、トランプは国内世論を抑えるべく先手を打っているように見える。

8月27日に北朝鮮の労働新聞が、この「国防権限法」にチラッと触れたのは、なんとも示唆的であった。つまり在韓米軍は駐留していてもいいから、終戦宣言だけはやってくださいよね、とトランプに呼びかけていると解釈されるからだ。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 8
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 9
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中