韓国のデトロイト、現代グループの城下町「蔚山」を襲う失業と自殺
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かつて豊かな企業城下町だった韓国南東部の港湾都市・蔚山(ウルサン)は、中国との競争、人件費の上昇、そして現代グループへの過度な依存によって大きく揺らいでいる。5月、蔚山で撮影(2018年 ロイター/Kim Hong-Ji)
現代重工業で働くため、リー・ドンヒーさんが韓国南東部の港湾都市・蔚山(ウルサン)に移り住んだ5年前には、現代グループの企業城下町として栄えていた同地の造船所は昼夜を問わず稼働していた。
従業員も韓国平均給与の3倍を稼いでいたという。
だが、現在52歳のリーさんは今年1月解雇された。造船受注の急減によって、仕事を失った現代重工<009540.KS>の従業員や下請け企業関係者は2015年から2017年にかけて約2万7000人に上る。
リーさんの妻は家計を支えるため、現代自動車<005380.KS>の下請け企業で最低賃金の仕事に就いた。20歳の娘は、蔚山で就職することを希望して現代重工系列の大学に入学したが、今では違う土地での就職口を探している。
一家の境遇は、蔚山の衰退を映し出している。
かつての豊かな企業城下町は、中国との競争、人件費の上昇、そして現代グループへの過度な依存によって大きく揺らいでいる。現代グループは、韓国で大きな影響力を持つ「財閥」と呼ばれる同族経営のコングロマリットの1つだ。
リーさんのような現代グループの従業員は、数世代にわたり、朝鮮戦争(1950─53年)による惨禍からの復興と、製造業を中心とする工業大国への変貌を支えてきた。蔚山も2007年までには、韓国で最も富裕な都市になっていた。
だが、韓国の財閥は今や独りよがりで、リスク回避志向に陥っており、海外の競合他社に追いつけずにいる、と一部専門家は危惧している。
アジア第4位の経済大国である韓国が輸出を重視してきたことも、主要な貿易相手国における保護主義の台頭や外的ショックに対する自らの脆弱性を高めてしまった。
「現代は私にとって、すべてだった。もうお手上げだ」──。現代自動車の工場から10キロ圏内で、同社従業員に人気の高層マンション群にある自宅で、リーさんは吐息を漏らした。
韓国統計局によれば、若者が職を求めて流出しているため、蔚山は現在、国内で最も急速に高齢化が進んでいる。同市の人口は1970年以降4倍に膨れあがり110万人に達したが、2016年には、他地域では増加しているにもかかわらず、初めて人口が減少に転じた。