貿易戦争が米企業に迫る「メイド・イン・チャイナ」再考 米国工場の方が低コスト?
浙江省杭州市で2018年6月、輸出用自転車部品工場で働く女性(2018年 ロイター)
約30年前、低コストの世界製造拠点として発展しつつあった中国南部にやってきたラリー・スローブン氏は、これまでに電動工具からLED照明器具に至る数百万ドル規模の製品を、米国の大手小売業者向けに輸出してきた。
そうした時代は終わりを迎えつつあるのかもしれない。
生産コストの上昇や規制強化、さらにサービス業中心の持続可能な経済構築を目指す中国政府の政策がローエンドの製造業を圧迫したことによって、スローブン氏の利益は年々削られてきた。
しかし、最後の一撃となるのは、米中貿易戦争によって高まる新たな関税リスクや、世界で台頭する保護主義だろう。
「一歩、また一歩、さらにもう一歩と、中国での製造コストはどんどん高くなってきていた」と語るスローブン氏。彼は米フロリダ州ディアフィールドビーチに本拠を置く家電製造キャップストーン傘下のキャップストーン・インターナショナル(香港)の社長を務めている。
広範な経済近代化策の一環として、中国政府がローエンドの製造業からハイテク産業へと優遇対象を転換する中で、製造業界はその圧力を感じてきた。
だが関税が発動される中で、「皆ついに目が覚めて、現実に向き合おうということになった」とスローブン氏は語る。製造業界は、「次の関税措置がとどめを刺すかもしれない」と懸念を深めているという。
スローブン氏は、中国でのエクスポージャーを減らして、タイなど成長する製造拠点に足場を広げようとしている。
「チャンスがありそうなのは、タイ、ベトナム、マレーシア、そしてカンボジアだ」とスローブン氏。「だが、皆が思うほど簡単ではない。中国で次に何が起きるのかも分からない」
医療機器から農業用具に至る米国の製造メーカー10数社をロイターが取材したところ、自国向け輸出を手掛ける企業が、どのように中国における製造戦略を見直そうとしているかが浮き彫りになった。
「関税の話が出る前は、生産全体の3割を中国から米国に移すことを検討していた」と、医療製品の米製造会社プレミアガードで欧州ディレクターを務めるチャールズ・ハブス氏は言う。賃金上昇や労働力の縮小、コスト急騰が、その理由だった。
「最近の関税を巡る動きを受け、実際に関税が発効するならば、生産の6割を中国から米国に移すことになるだろう」
他の米国企業も、選択肢を急ぎ検討している。
「現在の関税環境を踏まえれば、われわれのような企業が、社内でその影響を試算し、その軽減策を講じることは、自然なことだ」と中国を拠点とする米大手製造企業の幹部は語った。
対策としては、「中国からの調達拡大を控え、他の国からの調達に切り替えるか、雇用を米国に再移転する」ことなどが検討されるという。