いじめで「死ななかった子」と親を取材して分かったこと
ただしそれだけではなく、震災による精神的ショックを心配していた母親が、福島から避難した当初からFくんに対して「つらくなったら学校を休んでいい」と伝えていたことも大きかったようだ。
震災は大きなトラウマになっていたはずだし、いじめの苦しさもあって家で暴れることもあったため、母親は「絶対にこの子は守らなきゃ」と思っていたのだという。そしてFくんも、母親の「行かなくていい」という言葉を聞いた当時、「ほっとした」と話す。
「逃げてもいい」「休んでもいい」という安心感が、Fくんの「ぼくはいきるときめた」の根底にあるということだ。
本書の第一章から第五章には生々しいいじめの実像が浮き彫りにされているだけに、ときに読み進めることをつらくも感じる。だが、われわれ大人は、決してそこから目をそむけてはいけないはずだ。そして、そのうえで第六章「いじめから抜け出す」、第七章「親でも実践できるカウンセリングマインド」を読み、「もしものとき」のための知識をつけておくべきだ。
全てを紹介することはできないが、子どもの発する小さなSOSに気づくためのきっかけとして紹介されている「子どもの変化に気づく、十一のきっかけ」を抜粋しておきたい。上記のNさんの長男の件で母親が書き留めておいたことと重複する部分はあるが、参考にする価値は十分にあるだろう。
一、友だちづきあいに、変化はないか
二、身体にアザやケガが増えていないか
三、服がやぶれたり、汚れたりしていないか
四、持ち物が壊れたり、落書きされていないか
五、怒りっぽくなってイライラする、集中力がなくなる
六、自信を失った様子で「どうせ僕(私)なんか」とか「学校に行きたくない」などと言う
七、急に甘えてきたり、赤ちゃん返りをする
八、食欲がない。夜、よく眠れていない
九、金がなくなる。金の使い方が変わる
十、電話で呼び出されている。塾や習い事を、黙って休む
十一、周囲からの情報(196〜199ページより抜粋)
いじめの形態はさまざまで、どう対応すべきかも千差万別。だからこそ大人は、まず子どもたちをよく見ることから始めることが大切だ。現代の母親は忙しいため、「よく見る」ことは簡単ではなくなっている。しかし、そんななかでも、たとえ短い時間でも目を凝らし、心を澄まし、子どもたちをしっかり見つめることが大切。そして、そんな親たちを社会で支える仕組みが必要。
著者のそんな主張には、大きく共感することができた。そして、われわれ大人たちが本書から学ぶべきことはとても多いとも感じた。
『いじめで死なせない――子どもの命を救う大人の気づきと言葉』
岸田雪子 著
新潮社
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
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