最新記事

BOOKS

いじめで「死ななかった子」と親を取材して分かったこと

2018年8月24日(金)18時36分
印南敦史(作家、書評家)

以下は、Nさんらが加害者を相手に損害賠償を求める裁判を起こした際、裁判の中で長男が陳述した「いじめ」の詳細だ。


 休み時間に突然、●●から「お前をいじめてやる」と皆の前で言われた。「お前はきしょい(気持ち悪い)し、ノリも悪い、死んでほしいから」。▲▲らが拍手し、嬉しそうにうなずく者もいた。僕をいたぶることが、クラスの流行りになってしまった。(中略)
 僕のランドセルがサッカーボールのように蹴りまわされたことが何回かある。僕のランドセルは、小学校に入学するとき、祖父母がお祝いに買ってくれたものだ。四年生までの四年間の思い出が詰まっている。それが目の前で蹴られているのだ。僕にしたら、祖父母が集団リンチにあっているような気がした。僕が「やめろ」というと、「死ね!」「きしょい!」「うざい!」「消えろ!」とののしられる。もう何をしてもムダという気がして、抵抗ができなくなっていた。
 ただ我慢するしかない自分が情けなく、イライラして妹に八つ当たりするようになって親からは叱られた。そういう自分が余計に情けなく、「生まれてこなければよかった」と考える毎日が続いた。
 毎日の学校は地獄そのものだった。学校には僕が安心していられる場所はどこにもなかった。毎日学校に行くのが辛く、急に吐いたり、熱もないのに起きられなくなったりして体調も壊した。
 でも学校を休むことは自分としてはできなかった。休めば、次の日、何を言われるかわからないと思ったからだ。どんな辛いことがあっても、決して学校を休むことはできない。自分一人でただじっと耐えるしかなかった。
「お菓子食うから二千円ちょうだい」などと金を要求されていた。学校で、部活で、電話で、執拗に金を要求してきた。千円単位だった要求額は、万単位になっていた。(18〜20ページより)

結果的に一審で「いじめ行為」が認められ、二審ではさらに慰謝料などが増額して認められ、Nさん一家が勝訴した。しかし高裁判決が確定してからも、Nさんは長男が受けたいじめに気づけなかったことを悔やんでいるという。

あとから思えばいくつかの「サイン」はあったのだが、子どもたちが発するSOSのサインは、ほんのわずかな微弱電波のようなものだからだ。ちなみに母親はいじめをうかがわせるサインを記録していたというが、それらはNさんの長男だけに限らず、いじめを受けている多くの子どもに共通するものかもしれない。


いつも上の空でいることが多い
忘れ物や失くし物が多い
自信を失った様子
「自分はどうせバカだから」「何の取り得もない」などと言う
妹にあたる。イライラした様子
字が極端に荒い。持ち物に落書きが多い。連絡帳などの学用品が破損している
突然、食べたものをもどす
寝つきが非常に悪い
家族での外食をもったいないと言って嫌がる(27ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中