かわいいだけじゃない! 映画『皇帝ペンギン ただいま』で温暖化問題を考える
皇帝ペンギンの子育ての環境は、温暖化によってさらに厳しくなっている (c) BONNE PIOCHE CINEMA – PAPRIKA FILMS - 2016 - Photo : (c) Daisy Gilardini
<大ヒット映画の続編『皇帝ペンギン ただいま』のリュック・ジャケ監督が語るペンギンの魅力と絶滅の危機>
自然ドキュメンタリー映画としては異例のヒットを記録し、米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を獲得、「ペンギン・ブーム」を生んだ05年の『皇帝ペンギン』。南極の過酷な環境で子育てをする皇帝ペンギンの生態がさまざまな角度から捉えられ、ペンギンの父と母、子供たちそれぞれが語っているようなナレーションの演出も新鮮だった。
その続編『皇帝ペンギン ただいま』が8月25日に日本公開される。監督は前作と同じフランスのリュック・ジャケ。舞台も同じオアモック(営巣地となる氷丘のオアシス)でペンギンの子育てを追うが、捉える視点が変わり、前作ではできなかったドローン(無人機)撮影や水中深くの撮影などがされている。本誌・大橋希がジャケに話を聞いた。
――皇帝ペンギンをもう一度撮ろうと思ったきっかけは。
大きく3つの理由が挙げられる。まずは15年にパリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)。その時期に合わせて自分が南極に行けば、ライブ配信で南極や皇帝ペンギンの現状を伝え、会議をより活性化できるのではないかと思った。
それから、前作とは別のやり方で、例えば1匹の皇帝ペンギンの半生を描くようなストーリーができるんじゃないかという思いがあった。皇帝ペンギンは映画を作るにあたってのさまざまな条件や魅力を持つ動物だと私は考えているので。
もう1つは、前作では水中の映像はほとんど撮れなかったが、それができる条件が整ったから。十数年たって機材の進歩があり、水中に長時間入って映像を撮ることのできる人たちとの出会いもあった。
――映画的な条件とは?
皇帝ペンギンの姿を描くということは、南極全体を描くということでもある。自分が初めて南極に行ったのは1991年で、そのときは生物学者として14カ月間、南極でいろいろなものを観測した。
そこで今までの人生観が覆されるような、ものすごく大きな衝撃を受けた。皇帝ペンギンの美しさやパワーにも、南極の景色が持つ力強さにも圧倒された。それを機に、科学者ではなく映画人として、人間と自然の関係性をテーマに仕事をしていく道を選んだ。
ペンギンが人間を怖がらないことも大きい。彼らはフィルムに収めやすい生き物なんだ。
――でも『皇帝ペンギン ただいま』は、温暖化問題についてそれほど強いメッセージを発していない気がする。
あくまで映画作品なので、そこで何か強い主張をするということはしない。映画は映画として映像を見てもらい、人々に問題意識を持ってもらうことが役割だと思う。
私は映画以外にも、展覧会のようなものを企画したり、子供たちや学生たちに教育的な材料を提供したり、あるいはCOP21に映像を提供して議論の手助けをしたりしてきた。映画以外のさまざまな手段で自分の主張を伝えられると思っている。
今回はCOP21に合わせて南極に行き、このような映像を撮ったが、同時期にフランスのミッテラン図書館で写真展も開催した。いろいろな方法で子供たちや学校の先生、若い人たちに、的確にこの問題を伝えたいと思っている。映画もその1つであって、あくまでも映像や音や物語性で人々の感情に訴えたい。
日本未公開だが、私は以前に『アイス・アンド・スカイ』という映画を撮った。南極の環境変化を具体的に捉えた作品で、『皇帝ペンギン ただいま』よりも強い政治的主張を込めている。それは映画としても評価され、15年のカンヌ国際映画祭ではクロージング作品として上映された。