最新記事

ギリシャ

ギリシャはどこまで再建したのか──答えは「まだまだ」

Greece Boasts Emergency Bailout Exit

2018年8月21日(火)18時00分
クリスティナ・マザ

緊縮財政が終わるわけではない(写真は、EUが求める緊縮政策に反対するアテネの人々、2015年) Yannis Behrakis-REUTERS

<自立に向けて今後は自主再建に取り組むが高い失業率や人口減少に伴う内需の先細りなど課題も山積>

2010年に経済危機に陥り欧州債務危機の引き金を引いたギリシャは8月20日、EUから受けていた金融支援プログラムを終了した。国際金融史上最大、約790億ドルの支援から脱却したことは、ギリシャの自立への一歩といえる。

今回終了したのは、欧州安定化メカニズム(ESM)からの緊急融資分で、ギリシャが2060年頃までに返済しなければならない約3690億ドルの債務全体から見ればごく一部。とはいえ、ギリシャはこれで、また市場で国債を発行できるようになり、自力で資金調達ができるようになる。ユーロ圏にとっても嬉しい知らせだ。

EU経済・財政委員会のピエール・モスコビシ委員は20日、記者団に対して次のように語った。「3度の支援を渡り歩いたこの8年間は、つらいことも多かった。だがギリシャはようやく、長過ぎた危機から前に進むことができる。最悪の時期は過ぎた」

EUのドナルド・トゥスク大統領も同日、ツイートを投稿。「ギリシャ政府と国民の皆さん、金融支援プログラムの完了おめでとう。多大な努力とヨーロッパの団結によって、皆さんはこの日を迎えた」と祝福した。

支援脱却も「再発」懸念は拭えず

ギリシャ経済が引き続き成長目標を達成していけるように、EUは今後も予算の監視を継続するが、EU、欧州中央銀行(ECB)と国際通貨基金(IMF)のいわゆる「トロイカ」による屈辱的な財政管理は終わる。

それでも、ユーロ圏全体の平均失業率が約8.3%であるのに対して、ギリシャの失業率は19.5%前後。若者にいたっては44%近くにのぼり、厳しい緊縮策と政府の歳出削減は市民に大きな犠牲を強いている。ギリシャ政府の債務は依然、GDP比で177%前後に上る。

さらに、ギリシャは2022年まで基礎的財政収支のGDP比3.5%の黒字を維持することをEUに約束している。つまり、あと数年は緊縮財政を継続しなければならない。エコノミストの中には、ギリシャが今後数年のうちに再び支援を必要とすることになる可能性が高いという見方もある。

シンクタンク「大西洋協議会」のヨーロッパ政治・経済専門家であるバート・オースターベルドは、「支援脱却は景気回復に向けた重要な進歩だ」とした上で、「過剰債務を抱えるギリシャは、今後も巨額の財政黒字を維持していかなければならない。このハードルは高い」と指摘。「欧州金融安定基金に緊急融資の返済が始まる2032年までには、債務削減や債務免除などの負担軽減策が必要になるだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ビジネス

AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明=ジェ

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ

ビジネス

米中古住宅販売、1月4.9%減の408万戸 金利高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中