「世界一早く水没する都市ジャカルタ」BBC報道にインドネシアが動じない理由とは?
魚市場を築地並みの観光地に
こうした調査機関や学者による度重なるジャカルタ水没の危機、問題点の指摘が相次ぐ中、8月11日にスシ・プジアストゥティ海洋水産相は北ジャカルタのムアラバルにある魚市場を訪れ、同市場を東京・築地魚市場のような観光スポットとしても活用できるように改良整備を進めるよう提案した。
ムアラバル地区は大雨の度に海水によって水没することで有名な地区で、1階部分が水面下になり使用不可能になった建物も点在する。魚市場周辺も水があふれ市場としての機能が停滞することも起きていた。
ところが2018年2月に近代化改修工事を終えて生まれ変わり、今回漁業関連会社主催の「ムアラバル・フェスティバル」が開催された。スシ海洋水産相は「東京の築地は整然として清潔、世界の観光客が連日訪れる観光スポットになっている」と指摘して、ムアラバル魚市場に今後観光客を誘致する構想を打ち上げた。
ただ、魚市場周辺は改良されたものの、洪水対策や地盤沈下対策、さらに高潮対策などは手付かずで、11月から始まる本格的な雨期にどうなるか心配する声も出ている。
根本的な地盤沈下対策は海洋水産省の所管ではないものの、こうしたちぐはぐにも見える政府の対応を「縦割り行政の弊害」とみるか、「地盤沈下、水没の問題を深刻にとらえていない証拠」とみるか......。どちらにしろ「融通無碍、何でもありのインドネシア」であることは間違いなく、ただひたすらジャカルタが水没しないことを祈るしかないのが実情だ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2024年12月3日号(11月26日発売)は「老けない食べ方の科学」特集。脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす最新の食事法。[PLUS]和田秀樹医師に聞く最強の食べ方
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら