モーリー・ロバートソン解説:「9条教」日本の袋小路
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Photograph by Makoto Ishida for Newsweek Japan
<トランプ再選で日米同盟の亀裂が深まれば日本は自主防衛へと進む可能性が高まるが......。「東京大学×ハーバード大学」の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本メディアが伝えない世界情勢の読み解き方を「講義」する本誌8/7発売号「奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門」特集より>
この1年半、トランプ米政権が誕生したり、朝鮮半島情勢が大きく動いたりと、日本を取り巻く環境に地殻変動が起きています。そんななかで日米関係も揺れているわけですが、日米同盟の将来像と、「蚊帳の外」と言われる朝鮮半島をめぐる日本の立ち位置についてお話ししたいと思います。
まず日米同盟ですが、私はトランプ政権が1期で終われば、日米関係を襲う「震度」は2とか3ぐらいで済むと思います。でも2020年の大統領選挙で再選されれば、震度が大きくなり一部の建物が倒壊するように日米関係に少しずつひびが入り始めると思います。
そうなったとき、日本はどうするのか。考えられる手だてと、そこに立ちはだかる「壁」について考えてみましょう。おそらく日本国民にとって年々、アメリカは手放しで信頼できない相手へと変貌しています(既にそう?)。といって中国もそう簡単に信頼できないので、最悪、四方八方を敵対的か、必ずしも友好的ではない国家に囲まれるというシナリオも考えられます。
そうなると、結局は自分で自分を守るしかないということになるかもしれません。そういう危機管理の延長線上にある合理的な対策というのは、憲法改正して専守防衛を卒業することや徴兵制の導入、あるいはブラックウォーター社のような民間軍事企業から派遣された傭兵を雇うことでしょう。つまり外注してしまうということです。
日本も、日米同盟が信じられないとなれば、部分的にはアメリカに依存するけれど、依存できなくなった分の予算を独自の防衛力に補塡するようになることが考えられます。ただ、軍事は安全保障そのものなので、それを外注するとなると、場合によっては傭兵が日本国内のクーデターを手伝ってしまうリスクがある。
傭兵を雇う選択肢がないとなれば、残されるのは改憲、そしてその先には徴兵。どちらも合理的な解決方法ですけれど、日本国民が絶対に否定するでしょう。となると、「非積極的アメリカ支持」という選択肢が現実的かもしれません。心情的にはアメリカは良くないと思っているけれど、何かと相談してうまくやったほうが得という考え。アメリカを心から信頼できないが、ほかよりはましということです。
消極的な気持ちで自民党候補者に投票する人と似ていて、「自民党は腐敗しているし右翼志向でジェンダーに関する議員の言動も最悪だが立憲民主党とか共産党に任せるよりはまし」という人たちですね。ロン・ヤス時代のハネムーン的な日米関係はなくなるので、今後は4年ごとにちゃんとアメリカとの付き合い方を変えていかなきゃ、という感じになりそうです。アメリカは機能不全に陥りがちなので、付き合い方を政権ごとに再検討するということでしょうか。「新たなリアリズム」というほど高尚な話ではないかもしれませんが、そうした、どこかドライな同盟関係に変わっていきそうですね。
ただ、当面はそうした関係でお茶を濁せても、日米関係の先行きを突き詰めて考えるとやはり改憲と徴兵制になってしまいます。ところが日本には「9条がある」という、さながら「9条バリア」が張られてしまっている。