ベトナム、人権活動家に禁固20年 最高刑判決にみる政府の焦り
有罪の証言は偽証の疑いも
ルオン被告の弁護士ハ・フイ・ソン氏は今回の判決について「国家転覆容疑を証明する証拠は何もなく、全く不当な判決である」と批判している。
同弁護士は裁判では証人2人の証言だけが有罪の根拠とされたものの、証人は後に「治安当局者に殴られて(ルオン被告に不利で有罪となるような)証言を強要された」と告白していると指摘。偽証の疑いがあるとして証人2人の再喚問を裁判所に要求した。
しかし地元警察は裁判所に対して証人2人はそれぞれ喉を傷めていたり、激しい胃痛に襲われていたりしてとても裁判所に出廷して証言することは困難である、と回答。結局再喚問は実現しないまま判決が言い渡されたという。
また、海外を拠点に活動する別の弁護士グエン・バン・ダイ氏はBBCベトナムなどに対して「ルオン被告は全国的には無名だが、地元ゲアン省では名の知られた活動家で台湾企業による工業排水の海洋汚染問題に熱心に関わっていた。そして漁民への漁業補償問題を追求し、それをFaceBookなどで国際社会に発信するなど幅広い活動を続けてきた人物である」と述べ、長年のそうした社会的活動が地元当局の目に触れたことで、ベトタンとの関係を利用した逮捕、そして禁固20年という重い判決になったとの見方を伝えた。
ダイ弁護士もルオン被告と同様にゲアン省の警察に「国家転覆容疑」で2015年に逮捕され、17年には禁固15年の有罪判決を受けている。しかし幸いなことにドイツ政府と多くの支援団体、活動家の働きかけによって18年初めに「ドイツへ強制退去処分」となり、現在ではドイツで市民権を得てベトナム国内の政治犯や活動家の支援活動を続けている。
黙秘を続けるルオン被告
被告弁護団によるとルオン被告は一貫して法廷では黙秘を貫いた。不要な発言で言質をとられ事態がさらに悪化することを防ぐためという。「法廷内では常にルオン被告は冷静沈着かつ寡黙で、裁かれているのが一体誰なのかわからないほどだった」(弁護団の一人ダン・ディン・マン弁護士)という。
今回重い判決がでたことについて弁護団は「他の活動家への見せしめ、警告の意味がある判決といえるだろう」と話している。そして「今やベトナムは東南アジアで最も政治犯の多い国になってしまった」と警察、省当局、中央政府を厳しく批判している。
ベトナムでは8月9日にインターネットを通じて主にベトナム人女性の人権問題を追及していた女性活動家フイン・トゥク・ヴィーさんが突然逮捕される事件も起きる(「ベトナム女性人権活動家、突然の拘束 報道・言論の自由への道なお険しく」)など、人権状況が次第に厳しい状況となっている。
国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のアジア副代表、フィル・ロバートソン氏は8月15日に声明をだし「ルオン被告の即時釈放」を要求した。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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