モスク礼拝の騒音訴えた仏教徒女性に懲役刑 大統領選控えたインドネシア、少数派に冬の時代?
宗教・民族対立への不安
インドネシアの主要日刊紙「コンパス」が実施した世論調査では、2019年4月の大統領選にむけた最大の不安材料が「宗教・民族対立の激化」にあることが明らかになった。
調査ではインドネシアのタブーとされる「Sara(民族、宗教、人種、階層)に関係する対立や悪質な組織的宣伝など」に65%の人が懸念を示し、今後の社会情勢の動向を不安視していることが浮き彫りとなった。
インドネシアは、国民の88%がイスラム教徒で仏教徒は0・72%、さらに人種でも75%を占めるマレー系に対し中国系5%であり、今回の裁判でも被告が「中国系・女性・仏教徒」と、少数派あるいは社会的に弱い立場に属することから、「宗教、民族間の格差、差別が裁判にも影響していたのではないか?」という一部の見方にも説得力を与える背景がある。
また別の世論調査(インドネシア調査サークル・LSI)では、2019年4月の大統領選で再選を目指す現職ウィドド大統領がペアを組む副大統領候補にマアルフ・アミン氏を選んだことが少数派の支持離反を招いているとの分析もでている。
アミン氏はイスラム学者会議(MUI)議長というイスラム教指導者の重鎮で、副大統領候補指名はウィドド大統領がイスラム勢力の支持を確実にするための人選と言われている。
それを反映して、LSIの世論調査ではウィドド=アミン組への支持は52.2%と対立候補のプラボウォ組の29.5%を大きくリードしている。一方で少数派キリスト教徒のウィドド=アミン組への支持は前回の70.3%から51.1%に、学生の支持も前回の50.5%から40.4%へとそれぞれ急落しているという。
これはウィドド大統領が多数派イスラム教徒への支持拡大を選択したことで、少数派や若者の支持を失いつつあることを裏付けている。2019年4月の大統領選投票までの間、政治・経済・社会のあらゆる分野で、こうした「多数派イスラム教徒と少数派キリスト教徒・仏教徒」「多数派マレー系と少数派中国系」という対立が選挙戦略の一環として激化させられることも十分予想され、それが国民の不安をかきたてる要因となっているのだ。
今回KPKはメダン地裁が抱える汚職関連の裁判で、賄賂を被告側などから受け取っていたとの情報に基づき囮捜査を実施した。裁判所長と副所長は一時的に釈放されたが、家宅捜索で多額のシンガポールドルなど約30点を証拠として押収しており、今後の分析と捜査次第では再逮捕もありうる状況となっている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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