最新記事

NATO

アメリカは欧州を「タダ乗り」させるためにNATOを作ったのに

2018年7月12日(木)19時26分
ジョン・グレイザー

ドイツの軍事費を小さくさせたのはアメリカだった(NATO首脳会議で気まずいメルケル独首相とトランプ米大統領) Reinhard Krause-REUTERS

<トランプはヨーロッパ諸国の安保「タダ乗り」を非難するが、「タダ乗り」はNATOの欠陥などではなく、アメリカの大戦略の特色だ>

7月12日までベルギーのブリュッセルでNATO(北大西洋条約機構)首脳会議が開かれているが、ヨーロッパの同盟国に対するドナルド・トランプ米大統領の敵対的な姿勢のせいで、かつてなく気まずい雰囲気になっている。トランプの政策は他にもしばしばヨーロッパ諸国との関係に亀裂を生んでいるし、ホワイトハウスはEUとカナダを相手に全面的な貿易戦争の寸前まできているが、アメリカが提供する安全保障にヨーロッパの同盟国が「タダ乗り」している、という今回の主張は、西側の安全保障の要であるNATOの存続にも関わる話だ。トランプは会議直前まで、欧州諸国の国防費をGDP比2%に引き上げるよう求めてきたが、会議初日(11日)には各国首脳に面と向かって4%を要求した。

トランプはよく、NATOの予算の7割をアメリカが出している、アメリカは「食い物にされている」と言うが、英シンクタンク国際戦略研究所(IISS)に掲載された論説で、著者のルーシー・ベロー・シュードローとニック・チャイルズは、そうした見方に数字で反論した。

彼らの推計によれば、ヨーロッパに対するアメリカの直接的な防衛負担は、2017年が307億ドル、2018年も360億ドルに過ぎず、アメリカの防衛費全体で見れば5.1~5.5%ほどだ。

アメリカの負担は大きいが

彼らが集計したのは、次の3つの費用だ。 (1) 共通の防衛調達費を含めたアメリカからNATOに対する拠出額、(2)ヨーロッパに展開する米軍の駐留経費、(3)NATO加盟国にアメリカが与えた軍事支援。

たとえ年間300~400億ドルだとしても、その財政負担は決して軽くない。21兆ドルもの連邦債務を抱えるアメリカが、豊かで強く安全なヨーロッパに費やすにしては、莫大な負担だ。

だが真の問題は、こうした数字に捉われると、NATOに対するアメリカの貢献が実態以上に小さく見えてしまうことだ。年間支出だけを見てアメリカの貢献度を判断するのは間違っている。

それ以外にも、アメリカがヨーロッパの安全保障に資するのに十分な規模の軍隊を維持するための間接的なコストも計算に入れるべきだ。ヨーロッパに常設の軍隊が存在すること自体、アメリカの貢献として評価される必要がある。もしアメリカが、フランスやモンテネグロが攻撃されればテキサス州やメイン州が攻撃されたと同然と見なす、と約束していなければ、ヨーロッパの米軍は予備軍に格下げされるか、完全に消滅していただろう。

それらのコストを数値化するのは難しいが、その方が実態に近づく。

さらに、もしNATOの費用負担の不公平をめぐる論争が会計上の争いに矮小化されてしまえば、それこそ現状維持派の思う壺だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税が市場直撃、トリプル高から一転 株と為

ワールド

トランプ氏、不法移民の流入阻止で大統領令 国家非常

ビジネス

午前の日経平均は続伸、トランプ関税めぐり乱高下

ワールド

原油先物は下落、トランプ氏のエネ非常事態宣言や関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブーイングと擁護の声...「PR目的」「キャサリン妃なら非難されない」
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    台湾侵攻にうってつけのバージ(艀)建造が露見、「…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中