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フォロワー数1位、中国官製報道のSNS適応成功の裏にあるニュース製作「厨房」とは

2018年7月5日(木)11時53分
林毅

デジタルの潮流にあわせて変化する共産党の情報発信

中国の現行体制は(正邪は置くとして)人為的な管理なしには維持できない。そして、その管理にはさまざまな手法が組み合わされて使われている。暴力や法律などを使った比較的直接的な恐怖への訴求、インセンティブを用いた自発的な行動への誘導などのほか、メディアを通じたプロパガンダを含む情報発信もその重要な一部だ。

その姿形は新聞を例に取れば、各単位に党報が配布されていた時代から商業化に伴うタブロイド紙の勃興に応じた環球時報の創刊、ネットの普及に対応して澎湃新闻※が創刊されるなど、時代を経て変わり続けている。「どう自分をアピールし、自分の言うことに賛成させるか」は私企業にとっても大きな課題ではあるが、こちらはもし失敗すれば国が崩壊するという意味で、背負っている重さが違う。

※澎湃は厳密には人民日報直系ではないが、報道の内容からかなり中央に近いと目されている、上海の伝統ある新聞社グループが創刊したオンラインのみの媒体


・・・・

特に習近平政権になってから、共産党のインターネットカルチャーへの順応力は非常に高まったと言われる。これは、当然急速な勢いで進む国民のメディア接触習慣の変化へ対応したものだが、他の政府でここまでその流れについていけている所などないだろう。

上で挙げたのはマスメディアの中でのいわば器の形の変化だった。しかし最近起こっているのはその枠に留まらない、もっと広範な変化だ。

linyi180705-pic4.jpg

BiliBili動画、共青団の公式アカウント。

アウトプットで見ると、増えているのはMAD動画、スタンプ、ネットでよく使われる小話...発信者を見れば明らかに党や国であったとしても、その形式・内容はネットカルチャーと親和性が高い形に変換されていることが見て取れる。また、少し前に流行した人们的名义というドラマも、指示のもとに作られたものかどうかは不明なれど、ある意味でソフトなプロパガンダと言えるだろう。

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ネット上に流布する「習主席の趣味」の漫画(?)

・・・・

前回、中国の官製メディアの代表格である「党報(当然その中に上述の人民日報も含まれる)」の経営現代化について取り上げた。自分でも「党報は新聞社グループのお荷物で、都市報の収益でなんとか食っている」というのが新聞社へのイメージだったので、率直に言って意外だった。

今回ここで紹介するのは、教化宣撫の内容面においてどのような変化が起きているかということだ。その変化が党報という代表的な媒体の変化に直接現れている。

この変化の裏にはジャーナリズムの他の国とは違った位置付けと、他国よりも進んだデジタル化というふたつの要素がある。その2つが交錯し、この政府系本流のメディアに変化をもたらしている。

・・・・

現代において、インターネットでの「国民との対話」の窓口になるのはSNSだ。基本的に費用が掛からないことから何となく簡単で手軽なものと思われがちなSNSは、実際にはその運用には様々なノウハウが必要で、独特のルールも多い。その事情は多少環境が違うとはいえ中国でも同様だ。

必要に迫られたからだとはいえ、失礼ながらいかにも頭が固そうで冗談もわからないようなイメージがある共産党は、ネットの臨機応変でノリの軽い独特の文化とは水と油であると思っていた。

しかし上記のような状況をみると、少なくとも発信側である党の内部で何かが起こっているのではないかと思われる。ネットでバズるコンテンツ作成の専門家でも招聘したのだろうか?Tシャツ姿のシリコンバレー帰りの若者がスーツを着た党幹部を相手に一生懸命何がウケるか説明している図などは想像するだに失笑を禁じ得ないが。

・・・・

今回取り上げる人民日報の中央厨房=セントラルキッチンが、その端緒となるのかもしれない。公式の機関としてはかなり奇妙な名前だが、ある意味驚くほど直接的でもある。

冒頭で述べたように、微信の人気No1人民日報アカウントの内容を作っているのはおそらくこの中央厨房と思われる。

一般的にネット上でウケるためには誰かに喧嘩を売ったり乱暴な言動で炎上させたりゲス・下世話なネタを使うのが一番だが、政府機関ともいえる党報の公式アカウントでまさかそんな手段を使うわけにも行かない。

もちろんかなりの後押しがあったことは想像に難くないとはいえ、制約の多い中でそれでも世界で最も使われているSNSのNo1公式アカウントに上り詰めているのだから、運営チームのレベルは相当高いと言えるだろう。

・・・・

なお中央厨房は元々固有名詞ではなく、システムの名前だ。人民日報はこのシステムを導入した組織にその名前をつけているということになる。

そしてこのシステムはすでに67の新聞社で導入されているといわれている。まずはそのあたりの背景から簡単に紹介したい。

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