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「コンビニ外国人」が多い日本、政府の「移民」の定義はズレている

2018年7月18日(水)17時48分
印南敦史(作家、書評家)

著者がまず強調しているのは、留学生がコンビニでアルバイトすること自体にはなんの違法性もないということである。「留学ビザ」で在留しているとはいっても、アルバイトの自由は法的に認められている。ただしポイントは、無制限に働いていいわけではないという点である。

留学生の場合、出入国管理法(出入国管理及び難民認定法)によって「原則的に週に28時間まで(夏休みなどは1日8時間、週に40時間まで)」と労働時間の上限が決められている(入管法第十九条)。この規則を破ると雇用する側・される側の双方に罰則が科されるが、1日平均で4時間までは留学生も自由にアルバイトできるということである。

ちなみに「週に28時間」を仮に時給1000円で計算すると、週給2万8000円。4週間働くと額面で11万2000円。日本人の下宿大学生のアルバイト代が月平均で3万円未満(全国大学生活協同組合連合会調べ)だというので、10万円稼げばかなりの働き者ということになる。


 しかし、問題になっているのは、いまコンビニで働いている留学生のほとんどが多額の借金を背負って来日しているということだ。
 日本語を勉強しながら働ける「留学ビザ」で入国するために、一年目の学費やあっせん業者への手数料など合わせて一〇〇万円を超すような大金を払っているのだ。平均月収が二万円、三万円というような国で二十代の若者が一〇〇万円を作るには当然借金をするしかない。
 中には「日本に行けば日本語学校の寮に住んで、勉強しながら月に二〇万円稼げる」というあっせん業者の甘言に乗って、ひらがなさえ書けないレベルで留学生として日本に来る人もいる。
 しかし、週に二十八時間というルールを守っていたのでは、月に一〇万円を稼ぐのがやっとだ。二〇万円はまず稼げない。
 二年目以降の学費を払えずに退学してしまうと、当然のことながら留学ビザでの滞在資格はなくなる。となると、借金を背負ったまま帰国するか、強制送還を覚悟でオーバーワークするか、もしくは、最終手段として失踪するか――。いずれにしても、そこには日本に来る前に思い描いていたような〈明るい未来〉はない。(22〜23ページより)

コンビニで働く外国人を一概に「出稼ぎ目当ての留学生」と非難できないのは、日本の法律では留学生のアルバイトが認められているからだ。むしろ問題は、彼らを受け入れる制度やシステムに歪みがあることなのだと著者は言う。

例えば政府は2017年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」において、外国人労働者の受け入れについて「真摯に検討を進める」という表現を使ったものの、「移民」の受け入れについては認めていない。当然ながら移民に対する社会政策もなく、法整備もされていない。

しかしその一方、日本で働く外国人の数は現実的に増えている。外国人の流入者数を確認すると、2014年の時点で既に、経済協力開発機構(OECD)に加盟する34カ国(当時)のうち日本は世界第5位の「移民流入国」だという報告もあるのだそうだ。


 にもかかわらず、政府は「移民」を認めていない。
 政府の方針をわかりやすくいえば、「移民」は断じて認めないが外国人が日本に住んで働くのはOK、むしろ積極的に人手不足を補っていきたい、ということだ。(49ページより)

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