最新記事

BOOKS

「コンビニ外国人」が多い日本、政府の「移民」の定義はズレている

2018年7月18日(水)17時48分
印南敦史(作家、書評家)

それどころか、むしろ外国人に人手不足を補ってもらうための制度は多く、政府はこれまで「EPA(経済パートナーシップ協定=経済連携協定)による看護師・介護福祉士の受け入れ」「外国人技能実習制度」「高度外国人材ポイント制」「国家戦略特区による外国人の受け入れ」「留学生30万人計画」といったプロジェクトを推し進めてきたのだという。

ところで、この段階で見逃すべきでないことがある。外国人の受け入れには積極的である政府が、なぜ「移民」の受け入れを認めないのかということだ。実はここに、大きな矛盾と問題点がある。


 じつは「移民」という言葉には国際的に統一された定義はない。日本の法務省や外務省にもこれまではっきりとした「移民」の定義はなかった、と言えば驚く人も多いのではないだろうか。
 一般的な会話の中で使われる「移民」のイメージは「経済水準の低い国から高い国へ入国して生活している人たち」を指すことが多いが、国連などの国際機関では、一年以上外国で暮らす人はすべて「移民」に該当すると解釈している。つまり、国連などの定義に照らせば、イチローも「移民」であり、日本に住んでいる約二四七万人という在留外国人はほぼ「移民」である。(53〜54ページより)

ところが2016年5月24日、日本は独自に「移民」を定義づけることになる。自民党が掲げた労働力確保に関する特命委員会の報告書「『共生の時代』に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方」において、「移民」について初めて定義しているというのである。

その定義とは、「『移民』とは、入国の時点でいわゆる永住権を有するものであり、就労目的の在留資格による受入れは『移民』には当たらない」というもの。

つまり入国の時点で永住権を持っていなければ、正規の労働資格を得て10年以上日本に滞在し、国税や年金保険料を欠かさず納め、最終的に永住権を獲得したような外国人でも「移民」ではないということ。法務省の了解も得ている正式な定義なのだそうだ。


 報告書の中には、外国人の単純労働についての記述もある。
「介護、農業、旅館等特に人手不足の分野があることから、外国人労働者の受入れについて、雇用労働者としての適正な管理を行う新たな仕組みを前提に(中略)必要性がある分野については個別に精査した上で就労目的の在留資格を付与して受入れを進めていくべきである」
 わかりづらい書き方をしているが、これは、将来的には制度を整えた上で、単純労働の分野でも外国人を受け入れる可能性があることを示したものと考えられる。(55ページより)

しかし政府は、なぜこれほどまでに「移民」という言葉を避けるのだろう? その理由について著者が取材をした結果、外国人労働者の問題に詳しい日本国際交流センター執行理事・毛受敏浩氏からは「一般の国民に"移民アレルギー"があるからだと思います」という答えが返ってきたのだそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中