『ジュラシック』最新作はホラーに回帰
恐竜の美しさに恐怖する
その無慈悲なほどの空虚さは、登場人物に感情移入できない映画にはうってつけだ。『炎の王国』は、ジュラシック・パークという物語の根源がアクションではなく恐怖であることを理解している。
前作『ジュラシック・ワールド』で登場人物が次々と恐竜に食べられたのは、監督の純粋なサディズムによるもので、彼らの叫び声を楽しむためだった。
一方、バヨナは猛烈に腹を空かせた恐竜が床をきしませる音を響かせ、雨にぬれて光る屋根に恐ろしいシルエットを浮かび上がらせる。観客に不気味な恐怖を楽しませたいのだ。
もちろん、サディスティックな演出もある。脱走したスティギモロクが群衆を放り投げる場面はテレビゲームのようで、犠牲になった人間に何の感情も湧かない。バヨナは生き延びるために逃げ惑う姿以外、人間にあまり関心がないようだ。
プラットのあらゆる魅力を打ち消すという離れ業もやってのけた。さらに、使い古しのステレオタイプの悪役――ゆがんだ野心家、ならず者の商売人、荒々しい傭兵――ばかり登場しても気にしない。
その分、遺伝子組み換え恐竜「インドラプトル」にはこだわりを見せた。過去のシリーズに登場した恐竜を含むさまざまな生物をつなぎ合わせたインドラプトルは、その喉に吸い込まれるどの人間よりも緻密に描かれている。
『炎の王国』自体も映画版のインドラプトル――前4作の要素を複雑に組み合わせたハイブリッド作品――と言えるかもしれない。恐怖にぞっとしながらも、完璧なビジュアルににやりとさせられる演出も、シリーズの生みの親スティーブン・スピルバーグの手法の焼き直しだ。
とはいえ、唯一無二のDNAを持つ映画などないに等しい。それなら安易なクローンより、新しいハイブリッド種のほうがずっと楽しめる。
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