トランプ経済「絶好調」はただの幻想? 見えてきた失速の要因
それに対し、庶民の実質所得が増えれば景気浮揚効果が見込める(庶民は所得の多くを消費に回す)。しかし、現状はそうなっていない。賃金の上昇率が物価上昇率を大きくは上回っていないのである。リベラル系シンクタンクの経済政策研究所によれば、労働者が経済成長の恩恵に浴するためには、年3.5~4%の賃金上昇が必要だが、実際の賃金上昇率はこの水準に達していない。
景気循環調査研究所のラクシュマン・アチュサンCOOによると、賃金上昇と消費拡大のペースが落ち始めている。「目に見えない景気減速がもう始まっている」と、アチュサンはCNBCテレビの番組で指摘した。
貿易赤字解消にこだわるトランプの姿勢も、経済成長を脅かす要因の1つだ。カナダ、中国、メキシコ、ヨーロッパとの貿易戦争が長引く可能性が現実味を帯びてきたことで、アメリカの産業界は不安に駆られ始めた。
貿易戦争に負けることは許されないと、トランプは考えている。5660億ドルもの貿易赤字を抱えるアメリカが貿易戦争に敗れつつあるように見えているのだろう。
大半のエコノミストの考えは違う。全米納税者連盟が5月に発表した大統領宛ての書簡は、貿易戦争に突き進むことの危険性に警鐘を鳴らしている。この書簡には、ノーベル経済学賞受賞者14人を含む1100人以上のエコノミストが賛同した。
鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税が課されれば、メーカーがコスト増を価格に転嫁する結果として、消費者の負担が総額75億ドル増えると、中道右派系シンクタンクのアメリカン・アクション・フォーラム(AAF)は指摘している。
貿易戦争が雇用を減らす
この関税によりアメリカの鉄鋼関連の労働者は恩恵に浴するが、国内全体の雇用は減る。コンサルティング会社トレード・パートナーシップの分析によれば、鉄鋼関税で失われる雇用は、差し引きで40万人を超す。鉄鋼関連の職が1人増えるごとに、16人の職が失われる計算だ。
自動車など、鉄鋼とアルミニウムを原料に用いる製品の価格が上昇すれば、需要は落ち込む。そうすると、サービス業の業績低下、製造業の雇用減少など、さまざまな負の連鎖反応が生まれる。
サプライチェーンと戦略的パートナーシップが国境を超える時代のビジネスは、国単位での勝ちか負けかという単純なものではなくなっている。