最新記事

米経済

トランプ経済「絶好調」はただの幻想? 見えてきた失速の要因

2018年7月10日(火)17時40分
ビル・サポリト

それに対し、庶民の実質所得が増えれば景気浮揚効果が見込める(庶民は所得の多くを消費に回す)。しかし、現状はそうなっていない。賃金の上昇率が物価上昇率を大きくは上回っていないのである。リベラル系シンクタンクの経済政策研究所によれば、労働者が経済成長の恩恵に浴するためには、年3.5~4%の賃金上昇が必要だが、実際の賃金上昇率はこの水準に達していない。

景気循環調査研究所のラクシュマン・アチュサンCOOによると、賃金上昇と消費拡大のペースが落ち始めている。「目に見えない景気減速がもう始まっている」と、アチュサンはCNBCテレビの番組で指摘した。

貿易赤字解消にこだわるトランプの姿勢も、経済成長を脅かす要因の1つだ。カナダ、中国、メキシコ、ヨーロッパとの貿易戦争が長引く可能性が現実味を帯びてきたことで、アメリカの産業界は不安に駆られ始めた。

貿易戦争に負けることは許されないと、トランプは考えている。5660億ドルもの貿易赤字を抱えるアメリカが貿易戦争に敗れつつあるように見えているのだろう。

大半のエコノミストの考えは違う。全米納税者連盟が5月に発表した大統領宛ての書簡は、貿易戦争に突き進むことの危険性に警鐘を鳴らしている。この書簡には、ノーベル経済学賞受賞者14人を含む1100人以上のエコノミストが賛同した。

鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税が課されれば、メーカーがコスト増を価格に転嫁する結果として、消費者の負担が総額75億ドル増えると、中道右派系シンクタンクのアメリカン・アクション・フォーラム(AAF)は指摘している。

貿易戦争が雇用を減らす

この関税によりアメリカの鉄鋼関連の労働者は恩恵に浴するが、国内全体の雇用は減る。コンサルティング会社トレード・パートナーシップの分析によれば、鉄鋼関税で失われる雇用は、差し引きで40万人を超す。鉄鋼関連の職が1人増えるごとに、16人の職が失われる計算だ。

自動車など、鉄鋼とアルミニウムを原料に用いる製品の価格が上昇すれば、需要は落ち込む。そうすると、サービス業の業績低下、製造業の雇用減少など、さまざまな負の連鎖反応が生まれる。

サプライチェーンと戦略的パートナーシップが国境を超える時代のビジネスは、国単位での勝ちか負けかという単純なものではなくなっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領、防空強化の必要性訴え ロ新型中距

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中