最新記事

事故

インドネシア、また船舶事故で34人死亡 乗船名簿と乗客数合わず捜査が混乱も

2018年7月4日(水)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

荒波が甲板を洗うなか、連絡船「レスタリ・マジュ号」の乗客たちは救助を待っていた Antara Foto Agency-REUTERS

<6月下旬に160名を超える犠牲者を出す船舶事故が起きたばかりのインドネシアで、今度はフェリー事故が発生。なぜ悲劇は繰り返されるのか?>

インドネシアのスラウェシ島南スラウェシ州ブルクンバから離島のスラヤル島に向かっていた連絡船「レスタリ・マジュ号」が7月3日午後2時半ごろ(日本時間同日午後4時半ごろ)、目的地近くのパバディラン海岸沖約300メートルの海上で船内に浸水する事故があった。

地元警察や国家救命隊などの懸命の捜索の結果、4日午後までに155人が救出され、34人が遺体で収容された。

同連絡船には乗客名簿があったが、警察などによると名簿には164人の名前が記載されており、救出者と死者の合計189人より少ないという事態となっており、確認作業に追われている。

インドネシアでは6月18日にスマトラ島北部の観光地トバ湖で木造客船が沈没し、今もなお164人の乗客が行方不明のままとなっている。事故後、政府は全ての客船に対し、乗客名簿の作成、救命胴衣や救命ボートなどの完備、乗船定員の厳守などを船舶運航者、船長などに求めていた。

トバ湖の事故では湖内の島で働く周辺地区の住民が生活の足として木造船を利用していたこともあり、乗客名簿は作られていなかった。強風と高波という気象条件はあったものの、乗船定員60人のところに180人以上が乗船していたとみられるなど、杜撰な運航体制が惨事をさらに大きくしたとされている。

乗客名簿が混乱に拍車をかける?

南スラウェシ州での3日の事故は、浸水が始まり乗客らが船内で救命胴衣や浮輪を身に着けて右往左往する様子や、傾きつつある船体にしがみ付き、積まれた車両が海水に洗われる状況などが乗り合わせた客のスマートホンで撮影され、ソーシャルメディアの動画サイトなどにアップされている。

傾く船体から海中に飛び込み、救命胴衣姿で約300メートル先の陸地を目指して泳ぐ乗客の姿もあった。船体は完全に沈没はしていない状態で傾き、波にさらされている状況で、岸から救命胴衣や救命ボートで脱出してくる乗客を映した動画もアップされている。

トバ湖での教訓が生かされたのか乗客名簿が今回の連絡船は作成していた。だが、名簿記載の乗客数と「生存者+犠牲者の合計数」が一致しない事態となっていることが地元誌「テンポ」電子版の報道で明らかになった。

名簿の乗客数が「生存者+犠牲者の数」より多い場合は、それが行方不明者であり、さらに捜索が必要となるが、今回は逆のケースで名簿の乗客数が164人で「生存者と犠牲者」は189人に上っているのだ。

さらに名簿記載の164人のうちこれまでに救出され病院で治療手当を受けている144人は名簿上でも確認された。しかし残る20人の名簿の乗客は犠牲者の中でも確認できていない。つまり名簿に記載のある20人は名前はあるものの存在しない乗客ということになる。

その原因は簡単に言えば、名簿がいい加減で、正確な乗船客の数、氏名が反映されていないことになり、警察などは犠牲者、生存者の身元確認に頭を抱える状況に陥っているというのだ。


連絡船「レスタリ・マジュ号」の事故発生時の様子 KOMPASTV / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中