マレーシアのナジブ前首相、汚職疑惑で逮捕起訴 有罪なら禁固20年に鞭打ち刑も
マハティール新政権は発足直後から国民への公約でもある「ナジブ前首相の汚職摘発」に乗り出し、「家族としばらく休養したい」としてインドネシアに出国しようとしていたナジブ夫妻を直ちに「出国禁止」とした。
さらにクアラルンプール市内の自宅周辺を警察官らが警戒する「実質上の自宅軟禁」にして逃亡を警戒。そして5月16日以降連日、自宅や高級コンドミニウムなど複数のナジブ前首相の居住場所の家宅捜索に踏み切った。自宅からは段ボール280箱分の高級バッグ、現金、宝石、宝飾品などを押収した。コンドミニウムからも高級ブランドのハンドバッグ72個を押収。バッグの中には多額のマレーシア通貨とともに米ドルが保管されていたという。
高級品の大半はナジブ前首相の妻ロスマ夫人の購入品とされているが、ナジブ前首相は親しい友人や家族からの贈答品であると弁明していた。
ロスマ夫人は大量の高級ブランドのバッグや宝石を所有しており「マレーシアのイメルダ夫人」と陰でささやかれていた。
今後の捜査の展開次第ではロスマ夫人の逮捕も可能性があり、家族ぐるみの不正資金流用の実態が白日の下に晒されることにもなりそうだ。
野党に転落したかつての与党「統一マレー国民組織(UMNO)」などは、ナジブ前首相に対する逮捕・起訴は「建国以来これまで与党として政権を維持してきた我々に対して、総選挙で勝利した野党連合による歴史的、政治報復にほかならない」との姿勢で反発している。
しかしマハティール首相に政権を委ねることを選択した国民の多数は、今回のナジブ前首相の汚職摘発を歓迎しており、ナジブ時代は与党寄りが露骨だった地元紙も汚職摘発を積極的、精力的に進めるマハティール政権には好意的な報道を続けている。
今回のナジブ前首相の巨額の不正資金流用疑惑は政権交代が実現しなかったならば、永遠に闇に葬られていた可能性の高い事件だけに、国民は固唾を飲みながら、なおかつ喝采しながら、捜査と裁判の行方に大きな関心を寄せているのが実情だ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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