最新記事

事故

スマトラ島の観光地で客船沈没、行方不明者多数 インドネシア、船舶事故が多発する事情とは

2018年6月20日(水)12時06分
大塚智彦(PanAsiaNews)

トバ湖は火山活動でできたカルデラ湖で火山島のサモシール島はバタック族の島として有名でインドネシア国内、外国からの観光客が多く訪れる。インドネシアは6月15日の断食明けのレバラン(断食明け大祭)を挟んで、11日から20日までの大型連休中で、帰省中の家族などがトバ湖観光に多く訪れていた。

乗客名簿がないため行方不明者に外国人が含まれているかどうかもわからないが、通常はパラパット港から往復する船を観光客は利用することが多い。だが今回沈没した船はティガラスにあるシマルングン港に向かって出港し、料金も無料だということから乗客の大半は地元のインドネシア人との見方が強い。

頻発する船の事故

船舶事故の多いインドネシア、つい最近も大きな事故が起きたばかりだ。

6月13日正午過ぎにマカッサルのパオテレ港から約20キロ沖合のバランロンポ島に向かっていたモーターボートが出港30分後に沈没した。24人が救助され、1歳児を含む13人の死亡が確認されたが、乗客名簿がないことから正確な数はわからないものの約60~70人が行方不明となっている。

2018年1月には南スマトラ島バニュアシン沖のタンジュンセライ周辺海域で客船が高波を受けて沈没。乗員乗客55人中13人が死亡、32人が救助されたが、10人が行方不明となった。当時海上は豪雨で強風と高波の大荒れの状態だったという。

2016年3月4日には日本人にもお馴染みのバリ島東部から東ジャワ・バニュワンギに向かっていたフェリーがバニュワンギ港の手前約600メートルの海上で沈没した。乗員乗客82人のうち76人は救助されたが、船長以下6人が死亡、積載されていたトラックや乗用車など25台も沈んだ。原因は特定されていない。

島国で移動の足は主に船舶

インドネシアは日本と同様の島国で政府によれば1万3466島が存在する。移動に一番利用されるのが海上交通の船舶で、大型客船のほか、日本の中古フェリーから木造船、渡船まであらゆる種類の船が国民の移動の足となっている。

航空機による移動に比べて価格が安く一般国民でも気軽に利用できるということも船の需要を高めているといえるだろう。

それだけ船の移動に頼るインドネシア人だが、実はその大多数は水泳が不得意というか全く泳げない。日本のように学校教育に水泳が取り入れられていないことに加え、国民の88%を占めるイスラム教徒、特に女性が人前で肌を見せることを嫌うことも影響しているとされる。

ジャカルタ市内の大規模マンションやアパートには必ずといっていいほどプールが存在する。しかし実際に「泳いでいる」のは外国人が中心で、インドネシア人はプールサイドでのんびりしているか、子供用の浅いプールで水遊びするのが常だ。

船舶の航行の安全が確保されていれば水泳の必要性はないのだが、必ずしもそうでない場合があるインドネシアでは「水泳は必須」かもしれない。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中