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米朝会談の勝者

米朝会談「アメリカは高潔・聡明、敵はクレイジー」外交のツケ

2018年6月19日(火)16時38分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授)

理性的でないのはお互いさま

さらに、クレイジーで非理性的で無知な相手には、あめとむちの戦術や理性的な議論は通用しない。相手が非合理的で理性を持ち得ないと思うなら、通常の外交は時間の無駄だろう。クレイジーな人間やクレイジーな政権と、何を交渉するというのか。敵は非理性的だと強調することは、積極的な外交交渉など考慮する必要はないと言っているようなものだ。

一方で、他国から非理性的と思われる振る舞いについては、アメリカにも自省するところはあるだろう。イラクでも、リビアやシリアでも、米政府は理性のない失敗を繰り返してきた。アフガニスタンにおける外交政策に、アメリカの政治家や軍事指導者の理性を感じるだろうか。

もっとも、相手の理性を疑うのはお互いさまかもしれない。毎日のように恥知らずな嘘をつき、親しい同盟国の指導者のことさえ繰り返し侮辱する大統領を、他国はどう思っているだろうか。方針がころころと変わるため、今日の約束が明日まで続くかどうか、敵にも味方にも分からない大統領を。

私自身は、一部の批判と違ってドナルド・トランプ米大統領がクレイジーだとも、初期の認知症だとも思わない。しかし、これまでの振る舞いを見た世界の指導者たちが、気まぐれで報復好きなトランプの気を引いたりなだめたり、あるいは歩み寄ろうと努力する必要はないと判断しても無理はないとは思う。

金はトランプと仲良くするだけでなく、むしろ挑発しながら、自分を尊重させることに成功した。ほかの指導者も同じように考え始めたら、アメリカとの良好な関係を守ることより、アメリカ以外の国々で協力的な合意を目指すことに注力するだろう。

本当にそこまで至ったら、そのような合意を目指さない国のほうがクレイジーだ。

From Foreign Policy Magazine

【ニューストピックス/関連記事一覧】米朝合意、確証なき非核化への道


180626cover-150.jpg<トランプ、金正恩、日本、中国、北朝鮮国民――世紀の米朝会談で誰が得をしたのか、何が変わるのか。会談結果から読み解く今後の展望を検証した本誌6/26号特集「米朝会談の勝者」より>

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