ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン
世界最高の選手たちと推定60万の外国人観光客が訪れるW杯でも、プーチンは同様の成功を目指す。ただし規模が大きい催しだけに、過激派によるテロ攻撃から反体制派の抗議行動まで、政府はさまざまなトラブルの可能性に備えている。
「聖戦士」が自動小銃を構え、爆弾が炸裂し、競技場が白い煙に包まれ、ついに狙撃銃の照準がロシア大統領に合わせられる。そして「不信心者のプーチンよ、イスラム教徒殺害の代償を払え」という文言が躍る。去る4月にテロ組織ISIS(自称イスラム国)の支持勢力によってネット上に掲出された画像だ。
ほかにも、リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドといったスター選手が首を斬られる陰惨な合成画像も拡散している。そこには「競技場はおまえたちの血に染まる」とある。
ISISは過去1年ほどの間に、イラクとシリアで軍事的に大敗を喫してきた。だがソーシャルメディアや暗号化されたメッセージを利用して、ロシア国内のシンパに「W杯観客を狙え」と呼び掛けている。
「まんまと(ロシアで)事件を起こしたら、ISISとその戦闘員や支持者にとって絶大なプロパガンダ効果が生じるだろう」。国際軍事情報会社IHSマークイットのジェーンズ・テロリズム・インサージェンシー・センター(JTIC)のマシュー・ヘンマン所長は最近の報告書でそう指摘した。
とりわけ危険と思われるのが、爆弾の造り方を学んでシリアやイラクから帰国したロシア人戦闘員だ。治安当局によると、チェチェン共和国などがある北カフカス地方の出身者を中心として、約4000人のロシア国籍者が中東でISISの戦闘に参加した経験を持つ。
なかでも試合開催都市で、モスクワから約400キロのニジニノブゴロドは危険だ。5月4日には警官3人がISIS戦闘員との銃撃戦で負傷している。
集合住宅の一室に立て籠もった戦闘員は治安部隊に殺害されたが、その場所からわずか十数キロの所に、アルゼンチンやイングランド、スウェーデンなどの代表が試合に臨むスタジアムがある。同市では今年2月と昨年11月にも、襲撃を計画したISIS戦闘員らが治安部隊に射殺されている。
ロシア国内でイスラム系武装勢力の動きを監視しているネットメディア「カフカスの結び目」のグリゴリー・シュベドフ編集長によれば、南部各地の開催都市も危険だ。
最近も北カフカス地方でロシア正教会が襲われたように、ISISは可能な限りセンセーショナルな標的を選ぼうとしている。同地方との境界の町ボルゴグラードは特に心配だ。