トランプの米朝蜜月戦略は対中牽制──金正恩は最強のカード
4.張成沢は中国(一部ロシアも)との共同事業である羅先(ラソン)経済貿易区の開発を担当していたが、2012年8月に中国企業の共同事業体が、羅津(ラジン)港の第1埠頭から第3埠頭までを開発して50年間租借し、さらに第4~第6埠頭までをも建設するという、羅先経済貿易地帯の事実上の接収を北朝鮮と合意したとされている。張成沢は2013年12月12日に残忍な形で処刑された。その罪状の一つに「50年間の期限で、外国に羅先経済貿易区の土地を売った売国行為」というのがある。北朝鮮の軍事法廷は張成沢を「千古の逆賊」と断罪したが、それ以降、金正恩は「日米は百年の宿敵、中国は千年の宿敵」と叫ぶようになった。
5.張成沢の罪状の中にある「外国」が中国を指すのは明らかだが、このとき実はロシアにも50年間の埠頭使用権を認めていると言われている。それでもロシアが「千年の宿敵」の「外国」の中に入らないのは、一つには北朝鮮は旧ソ連が創建した国であることから、北朝鮮は建国以来、自らを大国・ソ連と肩を並べる存在として中国を見下してきたことと(これが朝鮮戦争勃発と、同戦争に中国を強引に参戦させることにつながる。その詳細は拙著『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』に)、張成沢を処刑するかなり前から、ロシアは北朝鮮の対露債務100億ドルの免除を検討していた最中だったからだ。債務免除は2014年4月に正式決定した。それに比べて中国は、2014年7月に習近平が建国後初めて平壌よりも先にソウルを訪問したほど中朝は犬猿の仲だった。
6. 最も強烈なのが、金正日の遺訓だ。2012年04月の韓国の中央日報が明きらかにしたところによれば、金正日は死の2ヵ月前に「中国に利用されるな」、「中国は今後最も警戒すべき国」といった遺訓を残しているとのこと。金正恩にとって、これ以上に大きな「嫌中」の理由はないだろう。中国はほぼ「親の仇」に近い存在なのである。
以上より、どんなに金正恩と習近平が熱い握手を交わしても、それはあくまでも互いに相手を利用しているだけであって、中朝友好は虚構であり取り敢えずの偽善あるいは手段でしかないことは歴然としている。
アメリカと肩を並べたい金正恩
金正恩が核実験やミサイル発射を続けていたのは、あくまでもアメリカを振り向かせ、アメリカと同等の立場で渡り合うためであった。だからアメリカに届くICBM(大陸間弾道ミサイル)を「完成」させたと宣言した時点で、対話路線に転換し、平昌冬季五輪を利用して、アメリカを対話路線へと誘い込んだ。少なくともそのことに関しては、金正恩は成功したと言っていいだろう。