最新記事

日本政治

北朝鮮の脅威が去れば、日本の次の「敵国」探しが始まる

2018年6月16日(土)15時10分
エリック・イサクソン(スウェーデン安全保障・開発政策研究所ジュニアリサーチフェロー))

安倍は5月9日、訪日した中国の李克強首相と会談したが Kim Kyung Hoon-REUTERS

<憲法改正のために安全保障上の脅威を演出したい? 安倍政権は、今度は中国への敵意をあおるのか>

北朝鮮をめぐる状況はこの1年間に激変し、今や和解の可能性が見えている。こうしたなか、日本は北朝鮮による核保有を阻止し、日本人拉致問題をめぐる交渉の席に北朝鮮を引きずり出すべく圧力路線を貫いてきた。

日本の国内政治において北朝鮮は「主な敵国」であり、それが圧力路線を正当化する要因になってきた。北朝鮮との融和が現実になったら、今度はどの国が敵に位置付けられるのか。そうした変化は東アジアの地域安全保障にどんな意味を持つのか。

安倍晋三首相はこの1年間、政治問題の渦中にある。米朝および南北の対話ムードは日本にとって予想外だったという指摘もあるが、日本政治の現状を考えれば、話のタネがほかにあるだけでも安倍にはありがたい。

自身の政治問題から意識をそらすことで、安倍の支持率が上がる可能性はある。9月に予定される自民党総裁選で3選を果たすこともあり得るだろう。それでも北朝鮮との融和が日本政治、とりわけ憲法改正問題に与える影響に関して疑問は残る。

安倍は北朝鮮の脅威を重視し続けてきた。動機はおそらく、日本人拉致被害に対する倫理的な怒りだけでなく、防衛強化と憲法改正が不可欠だとの意識を国内で広げる上で役立つとの意図にある。

北朝鮮問題の解決や改善は東アジアの地政学に対して直接作用するだけでない。日本国内での憲法改正問題の行方をも左右し、地域安全保障に間接的な影響を与える。

拉致問題が解決したら

日本の政治エリートの間には、特定の脅威の有無にかかわらず何らかの形で憲法を改正することへの強い支持がある。だが同時に、脅威の存在を指摘して憲法改正を正当化すべきだとの認識があるなら、彼らは北朝鮮の脅威が消えた後の空白を別の存在で埋めなければならない。

それは中国かもしれない。5月4日に習近平(シー・チンピン)国家主席と初めての日中首脳電話会談を行うなど、対中関係は改善の兆しを見せている。とはいえ内閣府の「外交に関する世論調査」では、中国に親しみを感じる人の割合は90年に52.3%だったが、16年は14.8%まで落ち込んだ(昨年は18.7%)。

言うまでもなく、日中が自他の差異を言い立てる「敵対的な他者化」に向かえば、東アジアの安全保障は悪影響を受ける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中