最新記事

中国

サッカー選手もアイドルも ウイグル絶望収容所行きになった著名人たち

2018年6月15日(金)17時15分
水谷尚子(中国現代史研究者)

(左上から時計回りに)サッカー選手のエリパン・ヘズムジャン(所属チーム「江蘇蘇寧足球倶楽部」サイトより)、ウイグル語での言論空間を作ったトゥルスンジャン・メメット(From Misranim)、新疆医科大学元学長のハリムラット・グプル(From uyghurnet)、ウイグル人ポップス歌手のアブラジャン・アユップ(ミュージックビデオより)

<収監者数は89万人以上。共産党の思想改造施設が著名文化人やスポーツ選手までも続々と収監し、ウイグルの民族アイデンティティを破壊しようとしている>

中国の新疆ウイグル自治区では、17年から大々的に行われるようになった思想改造目的の強制収容施設での不当な拘束が今も続く。主体民族である漢人以外の人々が社会的地位も収入も一切関係なく何の罪もないのに収監され、ターゲットの大部分はウイグル人だ。収監者数は少なくとも89万人。おそらく実際の総数はそれよりずっと多い。

そしてウイグル人社会に何らかの影響を持つ著名人たちもおしなべて収監されている。彼らは社会的影響力や発信力、経済力を持ち、ウイグル人が生きていく上での手本となった人物ばかりだ。

著名人や文化人であっても、収容所では朝から晩まで中国語でプロパガンダ歌謡を歌わされるなど、民族としてのアイデンティティを破壊するための「教育」が行われている。施設外に残された人々も、中国共産党と習近平国家主席を礼賛する文化大革命の時代と変わらない政治学習が地域単位で強要されている。

中国によるウイグル文化破壊がどれだけ深刻か。強制収容が確認された、あるいは行方知れずになった著名ウイグル人の顔ぶれが物語っている。

消えた教育界の重鎮たち

昨年8月30日付の地元紙『カシュガル報』に、カシュガル地区政府副長官の名で「二つの顔を持つ危険分子との死活的政治闘争」と題する評論が掲載された。高官でありながら分裂主義者に同情する危険分子として、次の3人を厳重処分したと書かれている。

自治区教育庁の元庁長サッタル・ダウットは昨年、「重大な規律違反」で拘束され、強制収容施設に送られた。サッタルが任期中に編纂したウイグル語教材は、自治区内で教科書として使われていたが、それらが「文学、歴史、道徳分野には、民族分離を煽る内容が含まれており、それを12年間も現場で使ったため大勢の若者が深刻な洗脳を受けた」と糾弾された。

サッタルに連座して教育庁や教育出版社の要職を歴任し、ウイグル自治区社会科学院副院長や新疆教育出版社社長の職にあったアブドゥラザク・サイム(61)、そして自治区政府党委員会元秘書官、教育庁副長官、新疆新聞社社長を務めたアリムジャン・メメットイミン(59)も収容施設に送られた。

80年代に新疆ウイグル自治区で初めて寄宿舎付きの私立学校「カシュガル語学・技術専門学校」を開校した老教育家アブリミット・ダモッラ(81)も、昨年4月にカシュガル市公安当局によって家族や学校関係者と共に拘束された。

アブリミットは学校にウイグル語で英語、中国語、アラビア語、トルコ語を教えるクラスと、看護師・歯科医師を育成するコースを設置。全日制だけでなく夜間制の学生も受け入れ、経済的に恵まれない人も教育を受けられるようにした。付属病院も開設し貧しい者への医療費免除など慈善事業を行って人々の支持を集めたが、00年頃に中国当局が施設を強制的に封鎖していた。

強制収容施設に収監されるまで、アブリミットも長期間に渡って軟禁状態に置かれていた。

アメリカの短波ラジオ放送「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」の報道によると、アブリミットは身柄拘束から2カ月後の昨年6月に死亡した。現在も自宅が警察によって封鎖され、彼への批判キャンペーンが大々的に行われていることから、周囲は不審死を疑っている。

webuyghur180615-2.jpg

アブリミット・ダモッラ(中央)は専門学校経営者で慈善家でもあった(筆者提供)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

企業向けサービス価格、2月は3%上昇 人件費などコ

ビジネス

中国CATLの香港上場承認、調達額少なくとも50億

ビジネス

食品高騰、外食への波及続くなど影響出れば利上げで対

ワールド

トルコで連日抗議デモ、過去10年で最大規模 集会禁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 9
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 10
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中