最新記事

日本社会

都心部でも見直される、お金を使わない「非貨幣経済」

2018年6月14日(木)15時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

常識的には非貨幣経済指数は農村部で高く都心部で低いと考えられるが alle12/iStock.

<物々交換や贈与といったお金を介さない物品のやりとり「非貨幣経済」が、シェアリングなどの発想から都心部でも広がっている>

社会は人々の分業で成り立っているが、高度化・複雑化した現代社会では、財やサービスの交換は貨幣を通じて行われている。物々交換や贈与といった慣行は、ほとんどなくなっていると言っていい。

しかし、完全に消え去っているわけではない。21世紀の今でも未開社会では物々交換などが広く行われているし、先進国の日本でも地域によってはまだ残っている。筆者の出身地の鹿児島県では、公立学校の教員は離島に赴任しないとならないが、住民が野菜や魚を分けてくれるので食費がかからず、へき地手当もつくのでお金が貯まり、鹿児島市内に戻ったら家が建つと言われている。

まさに「非貨幣経済」の恩恵だが、野菜への支出額と実際の消費量を照合することで、その度合いを推測できる「非貨幣経済指数」が出てくる。

東京都の野菜・海藻への平均月間支出額は9859円(1世帯当たり)で、これを食料の消費者物価地域差指数(1.037)で割り、他県と比較可能な数値に補正すると9507円(1)となる。成人男女の1日あたりの野菜摂取量は322.1グラム(2)だ。東京の非貨幣経済のレベルは、(2)÷(1)=3.388という指数で推測できる。

これは大都会・東京の数値だが、人間関係が濃い地方ではもっと高いだろう。先ほど例にあげた鹿児島県との比較をすると<表1>のようになる。

maita180614-chart01.jpg

支出額・摂取量とも東京が多いが、分子より分母の差が大きいので、算出された非貨幣経済指数は東京より鹿児島が高い。前者は3.388、後者は3.930だ。

余った農作物を分け与える贈与経済の頻度、自給自足の生活を営む農家の数などの違いを考慮すれば当然の結果だ。鹿児島県内でも、離島部に限ったら値はもっと高くなるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中