ロヒンギャ難民に迫るコレラと洪水の新たな脅威
数十の国際援助機関をはじめ、ロヒンギャ難民の支援に携わる130余りの組織が共同でまとめた援助計画書は、現状の密集した生活環境で「感染症が流行すれば、何千人もの死者が出る恐れがある」と警告している。
筆者はクトゥパロン・バルカリ難民キャンプ内にある国境なき医師団の仮設クリニックを訪れ、コレラの流行を想定した準備と対策を見せてもらった。脱水症状を緩和する経口補水液がストックされ、救急治療センターには排便用の穴を空けたベッドが並ぶ隔離スペースが設けてあった。
「問題は国際社会の無関心」
猛暑のなか、難民は砂袋やプラスチック、竹などを集めて、テントが豪雨で流されないよう補強作業に余念がなかった。だが洪水になれば、粗末なテントなどひとたまりもない。「モンスーンが来れば、複合災害を覚悟しなければならない」と、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のキャロライン・グラック広報官は言う。「1日や1週間で終わる危機ではない。4、5カ月、もしかしたら半年も続く」
バングラデシュにはサイクロンに備えた早期警戒システムがあるが、難民の避難計画は立案されていない。高台への避難は論外だ。高台は少なく、人間が多過ぎる。かといって頑丈なシェルターの建設には行政当局が及び腰だ。
強固な恒久的施設を建設すれば、難民の定住を認めるサインと受け取られかねない。今年末に総選挙を控えるなか、シェイク・ハシナ・ワゼド首相率いる現政権がそんなリスクを冒すはずがない。ロヒンギャ難民への世論の反発が高まっている今はなおさらだ。
実際、ハシナ首相は「不満がくすぶり、職がなければ、人間は暴力的になるもの」だから、ロヒンギャ難民の滞在が長引けば治安悪化の懸念が高まると、国内メディアに語っている。
バングラデシュとミャンマーの両政府はロヒンギャ難民の帰還について昨年11月に合意に達し、今年1月に帰還を開始する予定だったが、大半の難民が帰還をためらっている(ミャンマー政府は5月末、帰還希望者58人が国境近くの受け入れセンターに到着したと発表したが、それ以前に帰還したのは1家族だけだ)。現在のミャンマーの状況では、「自主的で安全な、尊厳のある持続可能な帰還」は望めないとして、国連難民高等弁務官はミャンマー政府に改善を求めている。