最新記事

米軍事

米国、AIの軍事利用加速 ビッグデータ活用でミサイル発射の兆候察知へ

2018年6月11日(月)14時15分

6月5日、米軍は人工知能(AI)を活用した秘密研究への投資を加速。写真は米国防総省のビル。3月撮影(2018年 ロイター/Yuri Gripas)

米軍は人工知能(AI)を活用した秘密研究への投資を加速している。狙いは、北朝鮮などによる核搭載可能ミサイル発射の予測、そして移動式発射装置の追尾や捕捉を支援することだ。

この取組みについては、ほとんど報じられておらず、公表されている細部についても、国防総省の最新予算において、ほとんど理解不可能な専門用語の中に埋もれている。

だが、この研究に詳しい米当局者は、潜在的な核ミサイル攻撃に対する防衛を強化するため、どのようにAI主導のシステムを開発していくべきかについて多数の機密計画が進行中だとロイターに語った。

こうした研究が成功すれば、コンピューターシステムが自律的に思考することが可能となり、人間の能力を超えたスピードと精度で衛星画像を含む膨大な量のデータを解析して、ミサイル発射準備の兆候を探ることが可能になると、米当局者も含めた複数の情報提供者は語った。研究が機密指定であるため、彼らは匿名を希望した。

事前警告があれば、米国政府は外交的な選択肢を模索することもできるし、攻撃が差し迫っている場合には、敵ミサイル発射前に米軍が破壊、あるいは迎撃する余裕も生まれる。

「発射前にミサイルを発見し、ミサイル発射をいっそう困難にさせるために、できる限りのことをするべきだ」と当局者の1人は言う。

複数の米国当局者と予算関係文書によれば、AI主導のミサイル関連プログラムのうち1件だけに限っても、トランプ政権は来年度予算を従来の3倍以上に当たる8300万ドル(約91億円)とすることを提案している。こうした予算の増額はまだ報道されていない。

予算額自体は依然として比較的小さいとはいえ、軍事面で積極性を増すロシアや、長年の敵国である北朝鮮の核兵器による脅威に直面する米国にとって、AIを活用したミサイル対策システム研究の重要性が高まっていることを示している。

AI技術を推進するボブ・ワーク元国防副長官は、具体的なプロジェクト名には触れないものの、「AIと機械学習によって、いわゆる『干し草の山から1本の針を見つける』ことが可能になる」と語る。

プログラムの中には、北朝鮮を対象とした試験的なものも含まれていると、AI開発プログラムに詳しい関係者は語る。北朝鮮がトンネルや森林、洞窟に隠蔽が可能な移動式ミサイルを開発している点に、米国政府は懸念を深めている。北朝鮮を対象としたプロジェクトの存在も、これまでのところ報道されていない。

プロジェクトは機密扱いだが、米軍のAIに対する関心は明白だ。例えば国防総省は、「プロジェクト・メイブン」と銘打って昨年大々的に宣伝された取組みの一環として、ドローンを利用して集めた映像から対象を特定するため、AIを活用していることを明らかにしている。

それでも、一部の米国当局者は、軍のプログラムにおけるAI関連予算は、全体としてひどく不十分なままだと不満を漏らしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中