なぜイタリアはテロと無縁なのか
今年2月にミラノの反ファシズムデモを警備する警察部隊 Massimo Pinca-REUTERS
<長年にわたるマフィアとの攻防が過激派のテロ対策に生かされているというが、警察の手柄だと胸を張れない事情も>
イタリア政府に難民認定を申請していたガンビア人が4月、ナポリで逮捕された。この男はテロ組織ISIS(自称イスラム国)に忠誠を誓う動画をメッセージアプリで配信。無差別に通行人をはねる自動車テロを計画していた疑いも持たれている。
この1件が示すように、イタリアにも相当数の過激派が潜入している。にもかかわらず、なぜか重大なテロは起きていない。フランス、ドイツ、イギリスなど他の欧州主要国でテロが相次いでいるのとは対照的だ。
この現象には、安全保障の専門家らも首をかしげている。
政府が万全のテロ対策を取っているからだ――多くのイタリア人はそう胸を張るだろう。だが実情はもっと複雑で、自慢できるような状況ではなさそうだ。
当然ながら、この国の治安当局もテロ封じ込めの努力はしている。ミラノに本部を置くイタリア政策研究所(ISPI)によると、18年1月から3月半ばまでにテロを企てた疑いで国外に追放された外国人は少なくとも27人に上る。
イタリア警察の公安部は3月末から4月初めにかけて一連の手入れを行い、複数の容疑者を逮捕した。ナポリにある「偽造書類工場」と呼ばれる施設も捜査の対象になった。警察によれば、ここで作製された偽造書類は欧州各地に潜むISISのメンバーに提供されていたという。
イタリアの警察は長年、組織犯罪と戦い、極左の「赤い旅団」やネオファシスト・グループなど国内のテロ組織に手を焼いてきた経験も持つ。テロ防止に成功しているのはそのおかげだとの見方もある。
英経済誌エコノミストはこれを「マフィア効果」と名付けた。60年代末から80年代半ばにかけてテロが相次いだ、いわゆる「鉛の時代」に、イタリアの警察と情報機関はマフィアとテロ組織の活動を監視するスキルを徹底的に磨いたというのだ。
組織犯罪を取り締まりやすい法律も整備されている。治安当局による通信傍受が「広範囲にわたって」認められているため、過激派の動きを監視しやすいと、ISPIの上級研究員アルトゥーロ・バルベリは指摘する。
また、フランスやベルギー、イギリスと違って、イタリア在住の過激派の多くは市民権を持たないため、疑わしいとなれば簡単に国外に追放できる。イタリアは植民地が少なかったため、イスラム教徒が多数を占める国から難民がどっと流入するようになったのはここ数年のこと。独立機関の調査によると、イタリアに住む約250万人のイスラム教徒のうち、市民権を取得している人は40%にすぎない。