最新記事

イラン核合意

米、イランと取引すれば「二次制裁」──撤退相次ぐ

2018年5月22日(火)16時28分
クリスティナ・マザ

核合意について欧州委員と会談を終えたイランのサレヒ原子力庁長官 Alissa de Carbonnel-REUTERS

<アメリカ市場へのアクセスを断たれるのを恐れてイラン進出企業が続々と撤退>

核合意に関してイラン側と会談したEU(欧州連合)の欧州委員は、会談後の5月19日、たとえアメリカの支持を得られなくても、イランならびにその同盟国と協力し、核合意の内容をできる限り維持していくと語った。しかし、一方的に核合意を離脱したアメリカはイランとイランと取引する国への制裁圧力を強めており、アメリカ抜きで核合意が守られるかどうか予断を許さない。

数日間にわたるイランとの会談を終えたミゲル・アリアス・カニェーテ欧州委員(気候変動対策・エネルギー担当)は報道陣に対し、「私たちは、(各国の利害が対立して二度と合意は無理と言われる核合意を)一から再交渉しなくてすむよう、現在の核合意を守っていかなければならない」と述べた。

「私たちのメッセージは非常に明確だ。現在の核合意は(イランの核開発に歯止めをかける上で)うまく機能している」

アメリカのドナルド・トランプ大統領は5月8日、2015年に欧米中露6カ国とイランが締結したイラン核合意から離脱すると発表した。それ以降、多くのEU高官が、たとえアメリカが離脱を決断してもEUは合意を順守していく用意があると述べている。

ロシアと中国も、核合意を維持する姿勢だ。

それでもアメリカは、イランと取引を続ける欧州の企業や銀行にはアメリカ市場へのアクセスなどを制限する「二次的制裁」を科すと脅しており、イランから撤退する企業が相次いでいる。

仏エネルギー大手トタルも撤退

フランスのエネルギー大手トタルは5月16日、イランと交わしたガス田開発プロジェクトから手を引くと発表した。プロジェクトを続行できるような制裁免除をアメリカが認めない限り、同国で進行中のガス田プロジェクトを段階的に縮小し始めるという。トタルはイランのサウスパースガス田に、最低でも10億ドルを投資する計画だった。

デンマークやドイツの企業も同様に、イランとのビジネスを段階的に減らしていくと発表している。

これに対しイランのモハンマド・ジャヴァード・ザリフ外相は、EUがいくら核合意を支持するといっても、アメリカ抜きでは不十分だと述べた。

新たにアメリカ国務長官に就任したマイク・ポンペオは5月21日、イランを批判し、アメリカは「史上最強の制裁」を科すと述べた。
「イランは二度と、中東を支配しようなどと考えられなくなるだろう」

アメリカの二次的制裁で世界の対イラン包囲網が狭まっていけば、イランが核兵器開発を再開しかねない。

(翻訳:ガリレオ)

20241224issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月24日号(12月17日発売)は「アサド政権崩壊」特集。アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米上院、国防権限法案可決 未成年者の性転換医療関連

ワールド

米、中国ティーピーリンクの禁止措置検討 安保上の懸

ワールド

英首相がトランプ氏と電話会談、ウクライナ支援での結

ビジネス

米経常赤字、第3四半期は13.1%増の3109億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    遠距離から超速で標的に到達、ウクライナの新型「ヘルミサイル」ドローンの量産加速
  • 3
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが物議...事後の悲しい姿に、「一種の自傷行為」の声
  • 4
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 7
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 8
    アサドは国民から強奪したカネ2億5000万ドルをロシア…
  • 9
    年収200万円は「低収入ではない」のか?
  • 10
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中