ヘンリー王子の結婚で英王室は変わるのか
物騒な動きは収まらない。国家警察署長協議会によれば、あの国民投票後にヘイトクライムは49%も増えている。私が話を聞いた離脱派は、有色人種や東欧出身者が国内にいること自体に怒っていた。ある老人は私にこう言い放った。「国を取り戻したい。あんたはイギリス人と結婚しているが、絶対に私たちの仲間にはなれない。私は人種差別主義者ではないが、あんたみたいなパキはこの国にいらない」
彼らにとって、私たち移民や有色人種は全てを盗む泥棒らしい。仕事、住宅、医療に恋人。今度はヘンリーまで奪ったというわけだ。
オックスフォード大学移民観測所が17年に実施した調査によれば、「イギリス人は出身国で移民を明確に区別している」らしい。「オーストラリア人を移住させるべきではない」と答えた人は10%だったが、「ナイジェリア人を移住させるべきではない」とする人は37%に上った。つまり、移民として最も好ましいのはキリスト教国出身の英語を話す白人。最も好ましくないのは、イスラム教国から来た非白人だ。
ささやかれるマークル孤独説
最近は、私も差別を肌で感じている。つばを吐かれ、侮蔑的な言葉をぶつけられる。殺すと脅迫されて、警察の警護を受けるようになった。EU離脱の手続きには議会の承認が必要だと主張して裁判に勝ったガイアナ出身の女性実業家ジーナ・ミラーも、人種差別主義者に命を狙われている。
マークルも憎悪や差別と無縁ではいられない。11月の婚約発表に対する一部の報道は、目に余るほど差別的だった。タブロイド紙デイリー・メールは「奴隷から王室へ」とツイート。ボリス・ジョンソン外相の妹でジャーナリストのレーチェル・ジョンソンは、マークルは英国王室に「エキゾチックな遺伝子を持ち込む」とメール・オン・サンデー紙に書いた。彼女はマークルの母親を「髪をドレッドにした下層出身のアフリカ系」と評したこともある。
差別を監視するラニーミード財団によれば、イギリス白人の25%は特定の人種に対する偏見を抱いている。親戚がイスラム教徒と結婚することに抵抗を感じる白人は50%に上る。国家統計局(ONS)は、大卒の黒人男性は大卒の白人男性に比べて無職になる確率が2倍近いとしている。
それでも悲観するには及ばないと、社会地理学者のダニー・ドーリングは考える。「少数の差別主義者がつけ上がっているだけで、一般の差別意識は今も薄れつつある」。そう語るドーリングは、ロイヤルウエディングのもたらす景気刺激効果にも期待している。国民がEU離脱の経済的打撃の大きさに気付き始めた今、この国に必要なのは観光客と好感度だ。
ではマークルに必要なものは何か。王室は彼女を幸せなプリンセスに仕立てたいようだが、「マークルは孤独を感じている」とみる記者もいる。
ヘンリーとマークルには末永い幸せを祈りたい。でもプリンセスには油断なく、賢く振る舞ってほしい。彼女が入る王室と国家は、見た目ほどフェアでも開かれてもいないのだから。
(著者はジャーナリストで、ウガンダ生まれのイスラム教徒。移民や多様性に関する多くの著書がある)
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