ヘンリー王子の結婚で英王室は変わるのか
離婚も階級も障害ではない
エリザベス女王の妹であるマーガレット王女は52年に、戦時の英雄ピーター・タウンゼント大佐と恋に落ちたが、離婚経験者であったため結婚は許されなかった。77年に16歳でチャールズと出会ったダイアナは4年後に壮大な結婚式を挙げたが、チャールズは長年の愛人で既婚者のカミラ・パーカー・ボウルズとの関係を続けた。
ダイアナは王室の慣習と傲慢さを拒み、本能的に人々を平等に扱い、多様な人々を受け入れた。大衆は自分たちの王女としてダイアナを愛したが、頑固な王家は彼女の奔放さを嫌った。誰でも受け入れるダイアナの包容力は王室にとっても利用価値があったのに、彼女の存在と行為を認めることはなかった。
離婚はつらい経験だったが、ダイアナは解放された。彼女はイスラム教徒の男性2人と恋に落ち、そのうちの1人と結婚しそうになった。それが実現していたら、王室はどう対処していただろう。彼らにとって幸いなことに、ダイアナは王室にさらなる試練を与える前に亡くなった。
一方、チャールズは晴れてカミラと結婚した。離婚はもはや罪でも、越えられない一線でもない。階級の境界も消えようとしている。女王の末息子のエドワード王子は、タイヤ販売業者の娘ソフィーと結婚した。
ウィリアム王子と結婚したキャサリン妃は、元客室乗務員とパーティーグッズの会社を経営するビジネスマンの娘だ。そしてマークルの母ドリア・ラグランドはヨガ教師、父トーマス・マークルはテレビの元照明ディレクター。70年前ならマークルは「王子の妻ではなく愛人で終わっただろう」と評したのは、英誌スペクテーターだ。いずれにせよ、近親婚や世襲貴族との見合い婚はもう時代遅れ。今は中産階級の平民が相手でも問題ない。
かつて王室の広報を担当していた人物によれば、ヘンリーは完璧なPRの機会を提供してくれた。「神話を変えなければ王室に未来はないことを彼らは知っている」と、彼女は言う。
しかし弁護士で作家のアフア・ハーシュは、マークルを迎え入れたことで王室が大きく変わるというのは幻想だと考える。「メーガンの王室入りで何世紀にもわたる構造的な不平等が変わるとは思えない」と、ハーシュは言う。「イギリスは、自国にはアメリカのような奴隷制度や人種分離政策、制度化された人種差別はないと自らを欺き、自己満足してきた。しかし植民地では現地の人々を搾取し、有色人種を徹底して差別していた」
その後のイギリスはずいぶん寛容になったが、近年はその反動が来ているようだ。4月に政府が、25年前に白人集団に殺された黒人少年スティーブン・ローレンスの追悼記念日を設けると発表すると、激怒する白人がいた。
最近は排他的な政党や政治家が声高に意見を主張し、幅を利かせている。EU離脱に賛成票を投じた国民全員が人種差別主義者だとは言わないが、投票した差別主義者の全員がEU離脱に賛成したとは言えるだろう。