『君の名前で僕を呼んで』少年のひと夏の経験
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エリオ(ティモシー・シャラメ、右)とオリバー(アーミー・ハマー) (c)FRENESY, LA CINEFACTURE
<主人公の少年を演じたティモシー・シャラメのみずみずしい演技がひかる、ルカ・グァダニーノ監督の傑作>
ひと夏の恋を描いた映画は数多い。避暑地や旅先で出会った2人の甘く切ない物語に、自らの甘酸っぱい思い出を重ねる人も多いだろう。
今年のアカデミー賞で脚色賞に輝いた『君の名前で僕を呼んで』は、そんな中でも特に心に残る1本。17歳の少年と年上のアメリカ人青年の恋を、美しい旅のように紡いでいる。
アンドレ・アシマンの同名小説をアメリカのジェームズ・アイボリーが脚色し、イタリアのルカ・グァダニーノ(『ミラノ、愛に生きる』)がメガホンを取った。アイボリーはカズオ・イシグロ原作、アンソニー・ホプキンス主演の『日の名残り』(93年)の監督でもある。
同性愛がテーマなのは事実だが、安っぽいジャンル映画ではない(激しいセックスシーンは出てこない)。むしろジェンダーを超えた永遠のラブストーリーで、昨年のアカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』やケイト・ブランシェット主演の『キャロル』の系譜に連なると言っていい。
まだエイズが社会問題化する前の1983年夏、24歳の大学院生オリバー(アーミー・ハマー)は、指導教官である考古学者のパールマン教授(マイケル・スタールバーグ)に招かれ、北イタリアにある彼の邸宅で助手として過ごすことになった。
古代彫刻や風景も美しい
その屋敷は教授の妻でイタリア人のアネラ(アミラ・カサール)が相続でもらった17世紀の別荘。夫婦の一人息子で17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)も一緒だ。これは言葉の美しさを楽しむ映画でもあり、一家の会話には英語とイタリア語、フランス語が飛び交う。
オリバーの仕事は、教授と一緒に古代彫刻のスライドを整理すること。そのほとんどは、優雅にして挑発的なポーズの裸像だ。作業が終わると近くの川で水遊びをし、夕涼みをしながら果樹の下で食事を取り、その後は村の娘たちとのダンスパーティーに繰り出す。
一方のエリオには、マルシア(エステール・ガレル)という名のガールフレンドがいる。何年も前から夏を一緒に過ごしてきて、今年はいよいよ初体験かという雰囲気だった。
しかしエリオは初めて会ったオリバーの魅力に取り付かれてしまう。まるで古代ギリシャの彫像が生を得たような美しさで(ただし服は着ている)、もちろん自分の肉体に自信は持っているが、誰とでも気さくに接し気取ったところがない。そんなオリバーに、思春期で自意識過剰なエリオは憧れると同時に反発もするのだが......。