トランプが命じたシリア「精密攻撃」の危うさ
中東「泥沼介入」の歴史
ニッキー・ヘイリー米国連大使は3月半ば、アサド政権に対する一方的な軍事行動を示唆。これに対してロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長は次のように警告した。「わが軍兵士の生命への脅威が発生した場合、ロシア軍は報復措置としてミサイルとその運搬手段の両方を攻撃対象とする」
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はシリアでの紛争拡大に反対するとして、もしトランプ政権が新たな軍事行動に出れば、アメリカは再び長期にわたる中東での戦争に引きずり込まれる恐れがあると警告した。
「シリアでの無謀な行動は、リビアやイラクのときと同様の禁じ手だ。そのような危険な賭けに出る者がいないことを願う。たとえ小さな事件でも、再びヨーロッパへの難民流入が激増するきっかけになる」
紛争拡大を「歓迎するのは、おそらく外国勢力だけだろう」と、ラブロフは付け加えた。「彼らはひそかに自分たちの地政学プロジェクトを前進させるため、(中東という)地域全体を破壊する試みを続けている」
01年の9.11テロ以降、アメリカはアフガニスタン戦争を皮切りに、いくつかの紛争に直接関わってきた。しかし、必ずしも思いどおりの結果にはなっていない。
アフガニスタンでは、9.11テロの首謀者であるウサマ・ビンラディンをかくまっているとの理由でイスラム原理主義勢力のタリバン政権を攻撃。直ちに同政権を崩壊させたが、その後も反政府武装勢力の活動に悩まされ続けている。
03年にはイラク戦争に踏み切った。フセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っているというのが開戦の「大義」だったが、この疑惑はぬれ衣だったことが後に判明した。フセイン政権の崩壊後、イスラム教シーア派主導の政権が樹立されたが、それに反発するスンニ派武装勢力の活動が活発化した。そうした勢力の一部が合流して、スンニ派武装勢力「イラク・イスラム国」が誕生した。
11年に中東で「アラブの春」と呼ばれた民主化運動が拡大すると、アメリカやその他のNATO諸国はリビアの反政府勢力を支援し、カダフィ政権を打倒させた。しかしその後、リビアは内戦状態に陥った。バラク・オバマ前米大統領は後に、このときに適切な対応ができなかったことを、在任中に犯した最大の失敗だと振り返っている。