最新記事

貿易戦争

中国製品へのお仕置き関税は、アメリカに戻ってくるブーメラン

2018年4月7日(土)14時00分
ウィリアム・ホーク(サウスカロライナ大学准教授)

中国による報復の最初の標的は大豆に。トランプ支持派の多い中西部が産地だ Daniel Acker-Bloomberg/GETTY IMAGES

<知的財産権侵害と対中貿易赤字への措置と言うが、一方的な制裁関税は混乱と貿易戦争につながるだけ>

7カ月にわたって中国の「不正な貿易慣行」を調査したトランプ米政権は3月22日、600億ドル相当の中国製品に新たな関税を課すと発表した。知的財産権の侵害と巨額の対中貿易赤字に対処するためだという。だが経済学者で国際貿易の専門家でもある筆者に言わせれば的外れだ。むしろアメリカの消費者と企業に打撃を与えかねない。

トランプ政権は不公正貿易に一方的な制裁が可能な米通商法301条に基づく措置だと主張。とりわけ非難したのがWTOが禁じる知的財産権の侵害。中国に進出する米企業を長年にわたり悩ませてきた問題だ。

知的財産権の侵害は産業スパイによる違法行為だけではない。中国での事業展開に現地企業との合弁会社を強制的に設立させる手もあれば、技術移転を義務付けることもある。米通商代表部は米企業の被害額を年間約500億ドルと推定している。

トランプが以前から腹を立てていた貿易赤字の問題はどうか。貿易関係が正常化した00年当時の対中貿易赤字は838億ドルだったが、17年には3752億ドルにまで拡大した。

安い製品を買える「中国ショック」は米経済に大きな混乱をもたらした。労働市場はこの状況に迅速に適応できず、労働者の生涯賃金は減り続けている。

トランプ政権は、対米輸出が困難になれば中国も知財泥棒をやめると踏んでいるようだ。しかし中国の対米貿易依存度は10年前より低下し、制裁に打たれ強くなっている。

現状に不満があるなら、アメリカはWTOに解決を委ねるほうが賢明だ。01年にWTOに加盟した中国は、そのルールに従わなければならない。しかもWTOの裁定は対米輸出に限らず、どこの国への輸出にも適用されるという利点がある。

すぐに起こる2つの問題

それに、貿易赤字は関税を課しても減らない。17年に5660億ドルに達した貿易赤字の主要な原因は、貯蓄と投資の不均衡にある。

一般的な国民経済の計算式では、貿易収支を含む経常収支は貯蓄と国内投資の差と財政収支の和に等しい。米国民の貯蓄率は70年代から低下していると同時に財政も赤字が続いている。その一方で、中国からの対米投資が増えアメリカの経済にとって重要な要素になっている。

つまり、貯蓄と投資のバランスがマイナスになり、おまけに財政も赤字。だからアメリカの貿易収支が赤字になるのは自明だ。そのため、制裁関税を実施してもこの現実は変えられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア

ビジネス

アーム設計のデータセンター用CPU、年末にシェア5

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中