北朝鮮の姿勢軟化は制裁の成果か、時間稼ぎか
「今こそ経験豊かな人材が必要なのに」と言うのは、米外交問題評議会シニアフェローで、ジョー・バイデン前副大統領の顧問を務めたイーライ・ラトナーだ。「相手の真意を見極められる外交手腕に優れた交渉団がぜひとも必要になる」
金の好戦的な性格や核・ミサイル開発に固執してきたこと、体制維持の必要性などを考慮しても「金の本心はつかみかねる」と言うのは、ランド研究所のブルース・ベネットだ。「あの男は1938年のミュンヘン会談で国際社会を欺いたヒトラーなのか、それとも本気で平和的解決を望んでいるのか」
トランプ政権のある高官は、北朝鮮の提案に懐疑的だ。アメリカ政府は交渉の扉を開いておくべきだが、北朝鮮が何度も約束を破ってきた事実を忘れてはならないという。「核兵器製造を続けるための単なる時間稼ぎなら、そうはさせない。こっちは何度も痛い目に遭わされてきたのだから」。また制裁はじわじわと効いているようなので、「交渉の一方で」制裁も続けるべきだと付け加えた。
過去1年間、米朝が互いに脅し、侮辱し、挑発し合ってきたことを考えれば、直接会談の提案が大きな変化なのは間違いない。だが北朝鮮側が和解の意思らしきものを示したのは、これが初めてではない。そのたびに期待は裏切られてきた。
しかし今回は韓国の特使団との会談の席で、金正恩が直々に対話を持ち出した。このことの意味は大きいとタウンは言う。それは「彼が先代や先々代とは違うことの証し」だ。
チャンスを逃すのは愚か
この急展開は韓国大統領の対話攻勢とトランプ政権の制裁強化の相乗効果だと、オバマ前政権の高官たちはみる。そして今回の対話提案は本気かもしれないと考えている。
「金正恩が本当に計算を変えた可能性がある。そこを確かめねば」とラトナーは言う。「いま私たちが聞いている話は、これまでに聞いた話と少しばかり違う。......トランプ政権がこれを無視したり、拒否したりするのは愚かなことだ」
もう1つの希望の光は、米韓合同軍事演習の実施を受け入れるとしていることだ。北朝鮮は従来、毎年の米韓演習を自国の体制転覆を狙った予行演習と決め付け、つい最近までは「反撃」の可能性も口にしていた。