最新記事

北朝鮮情勢

南北首脳会談に動き出した朝鮮半島、米朝対話は実現するか

2018年3月6日(火)16時17分
シェーン・クロウチャー

問題はまだある。近い将来、米韓の緊密な関係が試されることになるかもしれない大きな問題が、トランプが「アメリカ第一主義」の下で掲げた鉄鋼に関する輸入関税計画だ。アメリカへの鉄鋼輸出が3番目に多い韓国は、この関税で大きな打撃を受ける可能性がある。

「さらに緊張が高まる余地があるのは明らかだ。そして北朝鮮は、その気になれば両国の仲を引き裂くことができると知っている」とニルソンライトは指摘する。

別の火種はトランプ自身だ。外交駆け引きには繊細さが求められるが、トランプは繊細な人間ではない。どんなに愚かな考えであろうと、ツイッターを使って平気で脅し、拡散する。

「最大の不確定要素はドナルド・トランプだ」とニルソンライトは言う。「これまでは、全体で最も予測が難しいのは北朝鮮だった。しかし今は、トランプ政権という不確実性が加わった」

米朝会談を実現したいなら、米韓合同の軍事演習は再延期する必要があるだろう。平昌冬季オリンピックが終わった今、アメリカと韓国は北朝鮮の反対のため延期していた米韓合同軍事演習を実施する予定だ。こうした軍事力の誇示は、かなり意図的に北朝鮮政権を挑発するものになる。

「(米韓合同軍事演習では、)純粋に防衛を目的とした演習が展開されるが、どんな作戦もその気になればすぐに攻撃に転じられる。北朝鮮には恐ろしく見える」と、ホーアは指摘する。「(軍事演習は)恐怖心を抱かせることが目的だ。北朝鮮に対して、『やめた方がいい。さもなくば、お前たちを木っ端みじんにするぞ』と見せつけたいのだ」

だが、米朝会談実現の可能性を完全に除外することもできない。金正恩政権は異常だというのが一般的な見方だが、彼らは自分たちが何をやっているのか知っている。リスクの高い一か八かのゲームに興じているだけだ。

トランプも柔軟さを見せたことがないわけではない。だが、「非核化」という対話の前提条件で譲歩する可能性はあるだろうか? 「融通の余地はまだあると思う」と、ニルソンライトは言う。「トランプは、韓国、中国、日本などに大きな影響をもたらす北朝鮮との戦争を必要としていない」

早い段階で対話を実現させて、たとえ一時的にであっても食い違いを解消しなければ、戦争に発展しかねない。「大きな転機となるのは、北朝鮮の核攻撃が現実の脅威であるとアメリカが感じたときだ。そのとき、状況はがらりと変わる」とニルソンライトは言う。

「もちろん、アメリカ側はそうした事態になるのを努めて避けている。そうした事態が近づけば、軍事行動を求める声がずっと高まるからだ。われわれはまだそこまでは行っていない」

(翻訳:森美歩、ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米メディア、投票システム会社に和解金4000万ドル

ワールド

米・イスラエル、ガザ住民受け入れ巡りアフリカ3カ国

ビジネス

三菱UFJ銀、ジャックスの持ち株比率4割に 約39

ビジネス

アングル:「官僚主義」が阻む景気回復、ドイツ企業が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 3
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 4
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 5
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 8
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 9
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 10
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中