アングル:「官僚主義」が阻む景気回復、ドイツ企業が改善訴え

3月10日、ドイツが国内工業の回復を急ぐのであれば、新政権は思い切った公共投資 拡大策だけでなく、官僚主義的な手続きを劇的に減らす必要がある、と企業関係者は主張している。自動車部品サプライヤーのABICORグループのブーゼック工場で7日撮影(2025年 ロイター/Timm Reichert)
Victoria Waldersee
[ベルリン 10日 ロイター] - ドイツが国内工業の回復を急ぐのであれば、新政権は思い切った公共投資 拡大策だけでなく、官僚主義的な手続きを劇的に減らす必要がある、と企業関係者は主張している。
ロイターが自動車、エネルギー、物流といった産業を代表する業界団体のトップ幹部らにインタビューを行ったところ、ドイツの官僚主義的な手続きのコストや手間のせいで、本来であれば事業の現代化に投資すべきリソースが食い潰されている、という声が上がった。
自動車メーカーなど産業界のクライアント向けにボルト・リベット類を製造する従業員450人のメーカー、メカニンドゥス・フォーゲルサングを率いるウルリッヒ・フラトケン氏もその1人だ。
フラトケン氏は、自社の倉庫施設の一部を自動化する計画をあきらめた。新たな設備について最新の防火基準をクリアするためにはコストがかかりすぎ、投資を回収できないことが分かったからだ。
フラトケン氏は、アルゼンチンや米国が進める連邦政府の官僚機構の大幅な縮小に触れ、「両国のやり方がいいと思っているわけではない。あれは明らかにやりすぎだ」と言いつつ、「とはいえ、気持ちは分かる。何かしら意味があるとも思えずに、届け出の書式に記入を続けているのは本当にうんざりする」
ここ数カ月、欧州連合に対して規制枠組みの緩和・簡素化を求める企業幹部からの声が高まっている。米国市場の閉鎖性が強まり中国企業が海外事業を拡大する中で、どのように競争していくべきか企業が模索しているからだ。
ドイツでは先週、銀行業界のトップが、インフラや国防の分野で予定されている大規模な歳出計画が十分に効果を発揮するには、並行して官僚主義的な煩雑さを解消する必要がある、と釘をさした。
ドイツ企業5000社が加盟する鉄鋼産業の業界団体WSMのクリスチャン・ビートマイヤー代表は、欧州最大の経済大国ドイツでは、規制面での負担によりイノベーションが阻害されていると指摘する。
欧州委員会は2月、サステナビリティー報告基準の一部を緩和し、2029年までに報告義務を25%、中小企業に関しては35%縮小すると宣言した。管理コストに換算して375億ユーロ(400億ドル)の削減に相当する。
先日のドイツ総選挙で最多得票を得た保守派のキリスト教民主同盟(CDU)は連立政権の発足に向けて協議を進めているが、優先すべき政策課題15項目のうち、2番目に官僚主義の解消を挙げている。
だが現実には、企業幹部らはこうした公約に対して半信半疑で、政府が単に新たな要件を課すことになるのではないかと危ぶんでいる。
実際、世界経済フォーラムが2023年に行った調査によれば、EU諸国のうち、政府規制の遵守がそれ以前の4年間に比べてより複雑になったのは3カ国だけで、その1つがドイツだった。
ドイツのIFO経済研究所は許認可の取得や納税申告の提出、商品の取引といった業務に要するコストを測定する指数をまとめているが、2024年のデータによれば、他の欧州諸国、OECD加盟国ではここ数年負担が軽減されている一方で、ドイツでは2006年以来、官僚主義スコアが横ばい状態であることが分かった。
アディダスのビヨルン・グルデン最高経営責任者(CEO)は、規制要件が過剰になってしまったと話す。
グルデンCEOは3月、「我が社のESG報告書は245ページもある。実際の事業よりも資料作成にはるかに多くの時間を費やしている」と述べた。「官僚主義のせいでビジネスが停止してしまう」
<「検査、検査で何もできない」>
ニーダーザクセン州でアルミニウム鋳造工場を保有するゲルト・ローデルス氏は、企業幹部がリスク回避志向になる恐れもある、と語る。
ローデルス氏の企業は従業員数168人。法律上、資格を有するハシゴ検査担当者を1人確保し、毎年、製造するハシゴの安全性を検査し報告書を作成する義務を負う。ハシゴの仕様に関する独自の資料も添えなければならない。
こうした制度は、手間がかかる一方で、何か問題が生じた場合に企業幹部を守ってもいる、とローデルス氏は言う。
「検査担当者や検査証、証拠資料を廃止して、何かあった場合には企業オーナーがすべて責任を負うことにしてもいい。だが、そのためには社会の考え方を変える必要がある」
「この種の検査担当者は非常に多くて、検査、検査で何もできない。これぞ官僚主義だが、私の立場を守ることにもなっている」
ドイツはこれまで官僚主義の解消に向けて多くの法律を制定してきた。その1つが今年施行されるもので、納税通知書のデジタル化や、企業の領収証保管年数を10年から8年に短縮することなどにより、9億4400万ユーロの節約を謳っている。
CDUのマニフェストでは、報告義務を縮小し、中小企業については検査担当者の任命義務を免除する旨の単年度法案を提案している。
またCDUは、「サプライチェーン法」の廃止を望んでいる。これは従業員数1000人以上の企業に対し、サプライチェーン内での人権・環境関連のリスク低減への取り組みを報告するよう義務付けるものだが、結局はより小規模なサプライヤーに説明義務を転嫁することになり、またEU全体を対象とした類似の法律と重複している。
ドイツ緑の党や社会民主党、さらには複数の非政府組織(NGO)は、こうした報告義務を緩和すれば企業の説明責任が軽減され、サステナビリティー面で苦労の末に獲得した成果が帳消しにされてしまうのではないかという懸念を表明している。
だが企業側は、もっと簡素なシステムが切実に求められている、と主張する。
自動車セクターのサプライヤーであるABICORグループのフィリップ・ローリグ最高業務責任者(COO)は、「(報告義務があるからといって)今まで分からなかったことが表に出るわけではない」と指摘する。ABICORの取引先である大企業はサプライチェーン法の対象となっており、同社に長々しい様式への記入を求めてくるという。
「我が社にとっての付加価値はゼロだ」
(翻訳:エァクレーレン)