金正恩のお菓子セットが「不味すぎて」発展する北朝鮮の資本主義
兵士たちの食糧は、協同農場からの輸送過程で横流しされ続ける。食糧を受け取った軍の幹部は、ただでさえ目減りしてしまった食糧を横流ししたり、市場に売り払って別の安いもので埋め合わせたりする。
銀シャリを腹いっぱい食べられるはずの兵士に与えられるものは、トウモロコシ飯やジャガイモなどの貧相な食事だ。兵士たちは自主的に畑を耕したり山菜採りをしたりして、足りない食糧を補おうと必死だが、それでも足りないため、民家や協同農場を襲撃したり、国境を越えて中国で悪事を働く。
1977年、金日成氏の65歳の生誕記念日から配られるようになったお菓子セットは、かつては北朝鮮の子どもたちにとって、何よりの楽しみだったそうだ。
しかし、横流しまみれのお菓子セットの価値はダダ下がりしている。
平安南道(平昌オリンピックに)のデイリーNK内部情報筋によると、市場では中国製、北朝鮮の国営工場製、個人業者製の3種類のお菓子が売られているが、安くて美味しいと評判なのは民間業者のものだ。
中国製は1キロ1万北朝鮮ウォン(約140円)、キャンディは7000北朝鮮ウォン(約98円)。それに対し北朝鮮国内の個人業者が作ったお菓子は、量はやや少ないものの5000北朝鮮ウォン(約70円)で売られている。これらのお菓子の半値で売られているのが、国家指導者から贈られたお菓子セットなのだが、そこまで安くても人気はないという。
それにしても、なぜ個人業者の作ったお菓子は美味しいのだろうか。
次に個人業者だが、自宅を改造したり国営企業の設備を借りたりして工場を営む彼らは、トレンドに敏感だ。また、売れ行きが生活に直結するため、より美味しいものをより安く提供しようとする。資本主義が根を張り始めた北朝鮮では、このような業者間の競争が美味しくて安いお菓子を生み出しているのだ。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。