全米で人手不足から賃金上昇 州データに読み取る「転換点」
記録的低水準の失業率
ロイターが入手可能な直近のデータを分析したところ、50州のうち半数の州では昨年、時間当たり平均賃金が3%超上昇していた。2016年は17州、2015年は12州、2014年は3州だった。週当たり平均賃金の上昇も30州で見られ、過去数年と比べてこちらも急増している。
また、ニューヨーク州を含む17州では、失業率が記録的低水準、あるいはそれに近づいていることも分かった。2016年は、そのような州はわずか5州だった。
「失業率が非常に低いときは、賃金の伸びが加速する傾向にある」と、アリゾナ州立大学のBart Hobijn経済学教授は指摘する。
カリフォルニア州、アーカンソー州、オレゴン州などは、賃金上昇率が3%超、失業率は記録的低水準だった。
このように米国で労働者の賃金上昇が拡大する一方、堅調な世界経済がドイツから日本に至るまで各国の賃金を押し上げている。
米ニューヨーク(NY)連銀のダドリー総裁は先月、失業率が低い州でより堅調な賃金上昇が見られたことで、長らく停滞していたインフレ率がまもなく上昇することを確信したと語っていた。
カリフォルニア州のベーグル店「Noah's New York Bagels」は、53店舗あるうち半数以上で、新規雇用者に対し法定最低賃金以上を支払っている。昨年半ばの倍の店舗数だという。
サンフランシスコのベイエリアのような失業率が低い地域では「十分な人材を確保するのは非常に難しい」と、同社のタイラー・リックス社長は言う。同社では今年、5店舗を新規にオープンするが、さらなる賃上げも予定しているという。
確かに、アイダホ州のような一部の州では、失業率が非常に低いにもかかわらず、いまだに賃金が伸び悩んでいる。一方で、デラウェア州など賃金が非常に大きく伸びていても、失業率が自州の低水準記録を依然として上回っているところもある。
また、1970年代以降おおむね減少していた労働分配率は、この10年間微増にとどまっており、労働者が差を縮めるにはまだ長い道のりがあることを示唆している。
とはいえ、州レベルのデータはその第一歩を踏み出したことを暗示してもいる。
アーカンソー州に拠点を置く、航空機のキッチンやトイレ用部品を製造するメーカー、ギャレー・サポートは昨年、未熟練労働者に対し、20%の賃上げを行った。利益は奪われるが、トランプ政権のビジネス寄りの政策によって、ボーイングのような航空会社は恩恵が得られるはずだと、同社のジーナ・ラドキCEOは語る。「賃上げ分をカバーできるほどの売り上げ増をわれわれは確信している」
工場建設に特化するケンタッキー州のグレイ建設では、現場のマネジャーの賃金は2016年以降、20%増加している。だが、年間給与最大20万ドル(約2200万円)のほか1回以上のボーナス支給という条件でも、求人の全てを埋めるには十分ではないこともしばしばだという。
「仕事があふれ過ぎていて、人材を引き抜くのに苦労している」と、同社の人事担当副社長スーザン・ブリュワー氏は語った。
(Ann Saphir記者、Jonathan Spicer記者、Howard Schneider記者 翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)
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