絶望のシリア和平は新たな戦いへと向かう
シリア国境に近いトルコ南部ハタイに集結したトルコ軍部隊 Umit Bektas-REUTERS
<シリア内戦は最終局面を迎えているものの外国勢力の介入で未来は混沌としている>
アメリカはシリアの国土の約28%を半永久的に、クルド系のシリア民主軍と合同で実効支配し続けるつもりだという。情報の信頼性は複数の米政府当局者が認めている。
しかしシリア内戦に介入している他の勢力が、そんな計画を認めるわけがない。例えばアメリカの同盟国であるトルコ。先頃「オリーブの枝作戦」なるものを開始して、クルド系部隊の支配するシリア北部アフリンの攻略を目指している。一方で首都ダマスカスを拠点とする政府軍は南部でスンニ派系の反政府武装勢力に対する攻勢を強めているし、北部イドリブでも主要な空軍基地を奪還している。
テロ組織ISIS(自称イスラム国)の拠点崩壊で内戦の終結は近いという説もあるが、とんでもない。まだまだ流血は続いていて、アメリカがシリア領内に居座れる保証はどこにもない。
シリアの戦争に首を突っ込んでいる諸勢力の戦争続行能力を疑う声もあるが、こちらもとんでもないことだ。内戦の構図を複雑にし、長引かせてきた事情(アサド政権崩壊の可能性)は消滅しつつあるが、だからと言って国民に平和な未来が約束される気配はない。むしろ、古い戦争の腹が裂けて新たな戦争が生まれつつある。
実を言えば、14年の夏頃からシリアでは2つの戦争が並行して起きていた。1つ目の戦争は政府軍と反体制派の戦いで、主たる戦場は西部の人口密集地。第2の戦争はISISとアメリカ主導の有志連合との戦いで、主戦場は北東部だ。
どちらの戦争も終わりに近づいている。まず15年9月30日にロシア軍が参戦した時点で、最初の戦争はアサドに有利な形でほぼ決着がついた。反体制派の対空戦闘能力は乏しく、ロシアの空爆とイラン系地上部隊の攻勢の前には無力だった。
だからアサド政権は間違いなく存続する。ただし7年前の強権的な独裁政権と同じではない。今後のバシャル・アサド大統領には何の決定権もなく、政権の存続を保証する諸勢力の言いなりになるしかないだろう。
最近のアフリンの情勢を見ればいい。アサドはトルコ軍の侵略に断固として反対すると表明し、「アフリンに対するトルコ軍の残虐な攻撃は、トルコ政府が最初からテロリズムとテロ組織を支援していたことの証拠にほかならない」と述べた。同国のファイサル・メクダド副外相も、「シリア領空でトルコ軍機を撃墜する準備はできている」と豪語している。