南シナ海の支配強化する中国 戦略なき米軍パトロールを逆手に
建設と軍事化
中国は近年、南シナ海の岩礁や小島の数カ所で人工島を造成し、大規模な滑走路や基地の建設を進め、年間3兆ドル(約330兆円)規模の通商の航路となっている同海域ほぼ全域への領有権の主張を強化しようとしている。この海域では、ほかにフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイと台湾がそれぞれ領有権を主張している。
中国の沿岸警備隊や人民解放軍の海軍艦船は、南シナ海の広範な海域で哨戒活動を行っており、米国や他の国の海軍艦船の動きを定期的に追尾していると、地域の海軍関係者は言う。
香港嶺南大学の張泊匯教授は、中国側がトランプ氏のアジア戦略の先鋭化に揺れており、最近は比較的平穏な状態が続いていたものの、南シナ海で「行動」したくなっている可能性があると指摘する。
「中国は、報復としてさらなる軍事化を進めるかもしれない」と、張教授は言う。
米国は先週発表した新たな国家防衛戦略で、中国とロシアという独裁的国家の台頭に対抗する重要性を強調し、こうした国の強圧的行動に対して、同盟国や新たなパートナーをより強く支援する必要性を説いた。
ほとんどの専門家や外交官は、中国が引き続き、圧倒的な軍事力を持つ米海軍と南シナ海で実際に衝突する事態を回避しようとしているとみるが、一方で中国は軍事力の差を縮めようとしている。
中国は、南沙諸島に新たに建設した滑走路にバンカーや格納庫、高性能レーダーを設置した。ただ、北方に位置する西沙(パラセル)諸島に導入したような高度な地対空ミサイルや対艦ミサイルなどは設置していない。
同様に、中国政府はまだ南沙諸島に戦闘機を着陸させていない。今年、試験飛行が行われると予測する専門家もいる。
発火点
最近米軍が行った哨戒活動は、トランプ政権下では少なくとも5度目の南シナ海パトロールで、域内でも緊張度が高いスカボロー礁の海域を初めて通過した。
かつて米軍が爆撃演習に使用したこともあるスカボロー礁は、2012年に中国が実効支配を開始。中国による過剰な領有権主張だとして、フィリピンがオランダのハーグにある常設仲裁裁判所に提訴し、同裁判所は中国の主張を認めない判断を下した。