韓国、生活の質の向上させるための最低賃金の引き上げが失業を招く
文在寅政権は、最低賃金を段階的に引き上げる方針を示している Kim Hong-Ji-REUTERS
<1月から韓国の雇用労働者の最低賃金が引き上げられた。生活の質を向上させるための最低賃金の引き上げが、物価上昇や働き口そのものを失わせる結果になりかねない懸念が広がっている>
2018年1月から韓国の雇用労働者の最低賃金が1時間6470ウォンから7530ウォンに16.4%引き上げられた。
2017年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権は、低所得層の生活の質の向上を掲げ、正規雇用の拡大とあわせて最低賃金を2020年までに1時間1万ウォン(約1040円)まで段階的に引き上げる方針を示している。月給に換算すると157万3770ウォン(約164,150円)で約463万人が賃金の引き上げ対象になるとみられている。
公務員は最低賃金の対象外だが、9級公務員は俸給と職級補助費を併せて152万880ウォン水準で最低賃金を下回ることから引き上げの声が出る可能性が大きく、最低賃金引き上げの恩恵を受ける労働者はさらなる増加が見込まれる。
新たな雇用に負担を感じた企業は、無人システムを導入
生活の質の向上を目指す一方で、新たな問題が提起されている。雇用機会の減少と物価上昇だ。
2017年12月の政府が運営するサイトの求人数は前年同月を17%下回った。従業員の新たな雇用に負担を感じた企業が採用をためらった結果で、無人システムを導入する店やアルバイトを採用せず経営者が1人で働くフランチャイズ店が増えている。
ファストフードのロッテリアは、無人注文機の導入を推進する。設置費用は1台1000万ウォンほどで、長期的には従業員を雇用するよりコストが低い。ソウル市龍山の店舗は無人機での注文が一日平均50%に達しており、従業員を採用する代わりに無人機を増やす計画という。
コンビニ業界も無人化に積極的で、「イーマート24」は無人店を2店舗開業し、さまざまな生活用品を自動販売機で販売する無人店舗のマースセブンがチェーン展開をはじめた。
小売店や外食店だけではない。ソウル市江南のアパートは警備員を直接雇用から委託採用へ切り替え、大学でも清掃労働者など職員の削減が議題に上がっている。
韓国のオフィスビルや分譲マンションに相当するアパートの多くは、警備員が交代で24時間常駐しており、警備業務のほかに、周辺整理やゴミの分別、不在時の宅配便等の保管などを担っている。この警備員を直接雇用から外部委託管理にすることで、賃金上昇と退職給付引当金の追加負担がなくなり、入居者が負担する管理費の増加を避けることができるという。
ソウル市内のある大学で清掃や警備を請け負っている用役業者は清掃員を減らすとしており、他の大学でも定年退職で生じた職員の欠員を補充せず、時間制労働者や無人自動警護システムに置き換えるという。
韓国は大企業と中小企業、正規職と非正規職の賃金格差が大きい。なかでも法定最低賃金で就労する非正規職は、収入安定と生活の質の向上が望ましい反面、急激な増額はオートメーション化による雇用機会の喪失に繋がりかねない懸念があった。今回の大幅引き上げで懸念が現実のものとなりつつある。