最新記事

韓国政治

文在寅政権下に噴き出した李明博時代のウミ

2017年11月29日(水)17時00分
ジャスティン・フェンドス(東西大学教授)

文大統領率いる左派政権による報復との声もあるが、実態は長年のもみ消し圧力の消滅か Ahn Young-Joon-Pool-REUTERS

<文化人ブラックリストから株価操作事件まで、李元大統領の過去に新たなメスが入り始めた>

韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領が弾劾される端緒となった大規模集会から1年。現在も続く朴の汚職捜査のつながりで、朴の前任者である李明博(イ・ミョンバク)元大統領に新たな疑惑の目が向けられている。

これまでの捜査で、朴政権時代の国家情報院が、政権を公然と批判する文化人のリストを作成していたことが分かっている。政権はこれに基づき、国が補助金を交付する文化プロジェクトやテレビ番組の制作に干渉していたとされる。

ところが国情院が9月に公表した内部調査によると、このリストは李政権時代から存在し、少なくとも83人が文化プロジェクトに参加する道を閉ざされていたことが分かった。それだけではない。当時の国情院は、政府に批判的な言動を、国家破壊活動として積極的に取り締まっていたらしい。

その先頭に立っていたのが、元世勲(ウォン・セフン)元国情院長だ。元は、朴と文在寅(ムン・ジェイン)現大統領の一騎打ちとなった12年の大統領選で、文を中傷するインターネット投稿(ツイートは120万件以上)を指示するなど、公務員に禁じられている政治介入を、国情院を使って行っていたことが分かっている。既に今年8月に懲役4年の実刑判決を言い渡された。

かねてから文は、元の「身内」だった国情院が情報開示を渋っているとにらみ、全容解明の再調査を命じていた。9月の公表はこれを受けたもので、元の指揮下の国情院が、保守系市民団体の政治活動をサポートしていたことや、李政権にダメージとなる情報を流さないようメディアに圧力をかけていたことが明らかになった。

大失敗だった河川事業

李が12年の大統領選で、元に不正な世論操作を指示していたかどうかは分からない。だが、ここへきて李の数々の疑惑に、再び厳しい目が向けられている。

例えば、李が09~11年に推進した「4大河川整備事業」。22兆ウォン(約2兆円)を投じて4大河川の水質を改善し、生態系を回復し、洪水対策を強化し、ウオーターフロントを再開発するという大型インフラプロジェクトだった。

実際、16の川堰、5つのダム、96の貯留池などが造られたが、かえって河川の自浄作用が失われて、アオコが大発生。酸素不足で魚が大量死したり、川が青緑色に染まって「抹茶ラテ」と揶揄されたりして、環境活動家や世論の猛批判を受けた。

そもそも4大河川整備事業は急ごしらえで、実施方法にも問題があると、野党は批判した。入札プロセスが不透明な上に、異例のスピードで審査が終わり、事業者が選定されたというのだ。まるでどの業者に発注するか既に決まっていたかのように(朴政権も同様の批判を受けた)。

業者の経費管理に関する監査が甘過ぎるし、不透明だという声もあった。それもそうだろうと、批判派の多くは冷めた様子で言う。4大河川整備事業は、頓挫した「朝鮮半島大運河プロジェクト」の穴埋めとして、急いで考案されたというのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トルコ財務相、インフレ率が中銀予想レンジまで低下と

ビジネス

上海自動車ショーが23日開幕、テスラ競合モデルなど

ビジネス

中国CATL、ナトリウムイオン電池の新ブランド立ち

ワールド

アングル:フランシスコ教皇が死去、葬儀日程や後継者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 7
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中